◇◇◇◇◇
「——あのままここで死んだように暮らしていた方が、よほど幸せだったかもしれないわね」
姉妹の嘲笑が、玉蓮の意識を現実に引き戻した。気づけば、姉の温もりを繋ぎ止めるように、己の両腕を強く抱きしめていた。食い込んだ爪の跡が、赤い筋となって浮かび上がっている。
その手を懐に伸ばし、取り出した小さな守り鳥。硬質な木肌が、姉の手の熱を微かに伝えてくれる。
「姉上……」
「取り柄の顔のおかげで生きてきて、その顔のせいで死んだのね」
「玄済の王太子は、美しいものを嬲り壊す趣味がおありだそうよ。養母の王后様でさえ、それに目を瞑っていらっしゃるとか」
「燃え盛る宮殿から幼い王太子を救い出した『菩薩』様だもの。きっと何事にも寛大でいらっしゃるのでしょう」
「英雄と謳われる母に、獣のような息子。……なんておぞましい国なのかしら」
「あなたの姉はね、その獣に真っ白な手足を、一本ずつ切り落とされたんですって」
姉妹のひとりが、玉蓮の腕をなぞった。指先が手首の骨を愛おしげに這う。
「……最後に残ったのは、美しい顔と胴体だけの、血塗れの塊」
「やめて、かわいそうよ。美しい皮だって、剥がされたというのに」
——みしり。
乾いた鈍い音が、手のひらの中で響いた。小さな鳥の小さな羽。その片翼に、ひびが入った。木片が、構わず握りしめる指に鋭く食い込む。とぷり、と熱い液体が溢れ出し、指の隙間から床へと滴り落ちる。
姉妹たちの声も、唇の紅も、絢爛たる衣の彩りも、すべてが灰色に沈んでいく。蘇るのは、姉の頬を伝った透明な涙の輝きと、婚礼衣装の目に痛いほどの赤。
ギリギリと歯がぶつかり、思わず噛み切った唇の端から、その赤と同じ血の雫がこぼれ落ちた。
涙は一滴も流れない。鼓動が火打ち石のように、胸の奥で火花を散らし、腹の奥底から、赤黒い何かが音を立てて燃え上がる。
目を閉じれば闇。姉の笑顔が浮かんだかと思えば、次の瞬間には血に塗れてバラバラに引き裂かれていき、その無惨な残像の奥から、せせら笑うかのように、血に濡れた王太子の幻影が滲み出した。
玄済国、王都・呂北の輪郭が、地獄の炎の如く脳裏に焼き付いて離れない。
——姉上。
ゆっくりと顔を上げた先の窓の向こう側。燃え尽きようとする夕陽が世界を血の色に染め上げている。その赫が、瞳に宿っていく。
玉蓮は、真っ直ぐと見据えた。玄済の王太子の喉笛に剣を突き立てる日を。
「——あのままここで死んだように暮らしていた方が、よほど幸せだったかもしれないわね」
姉妹の嘲笑が、玉蓮の意識を現実に引き戻した。気づけば、姉の温もりを繋ぎ止めるように、己の両腕を強く抱きしめていた。食い込んだ爪の跡が、赤い筋となって浮かび上がっている。
その手を懐に伸ばし、取り出した小さな守り鳥。硬質な木肌が、姉の手の熱を微かに伝えてくれる。
「姉上……」
「取り柄の顔のおかげで生きてきて、その顔のせいで死んだのね」
「玄済の王太子は、美しいものを嬲り壊す趣味がおありだそうよ。養母の王后様でさえ、それに目を瞑っていらっしゃるとか」
「燃え盛る宮殿から幼い王太子を救い出した『菩薩』様だもの。きっと何事にも寛大でいらっしゃるのでしょう」
「英雄と謳われる母に、獣のような息子。……なんておぞましい国なのかしら」
「あなたの姉はね、その獣に真っ白な手足を、一本ずつ切り落とされたんですって」
姉妹のひとりが、玉蓮の腕をなぞった。指先が手首の骨を愛おしげに這う。
「……最後に残ったのは、美しい顔と胴体だけの、血塗れの塊」
「やめて、かわいそうよ。美しい皮だって、剥がされたというのに」
——みしり。
乾いた鈍い音が、手のひらの中で響いた。小さな鳥の小さな羽。その片翼に、ひびが入った。木片が、構わず握りしめる指に鋭く食い込む。とぷり、と熱い液体が溢れ出し、指の隙間から床へと滴り落ちる。
姉妹たちの声も、唇の紅も、絢爛たる衣の彩りも、すべてが灰色に沈んでいく。蘇るのは、姉の頬を伝った透明な涙の輝きと、婚礼衣装の目に痛いほどの赤。
ギリギリと歯がぶつかり、思わず噛み切った唇の端から、その赤と同じ血の雫がこぼれ落ちた。
涙は一滴も流れない。鼓動が火打ち石のように、胸の奥で火花を散らし、腹の奥底から、赤黒い何かが音を立てて燃え上がる。
目を閉じれば闇。姉の笑顔が浮かんだかと思えば、次の瞬間には血に塗れてバラバラに引き裂かれていき、その無惨な残像の奥から、せせら笑うかのように、血に濡れた王太子の幻影が滲み出した。
玄済国、王都・呂北の輪郭が、地獄の炎の如く脳裏に焼き付いて離れない。
——姉上。
ゆっくりと顔を上げた先の窓の向こう側。燃え尽きようとする夕陽が世界を血の色に染め上げている。その赫が、瞳に宿っていく。
玉蓮は、真っ直ぐと見据えた。玄済の王太子の喉笛に剣を突き立てる日を。

