玉蓮は彼らに向けていた視線を再び赫燕に戻して、変わらず繰り広げられている光景に顔を(しか)めた。

赫燕の耳元に寄せられる、濡れたように赤い唇。耳の奥をざらつかせる、彼女たちの笑い声。息を吸えば、甘ったるい香が喉に張り付く。

後宮で繰り広げられる光景となんら変わらない。ただ一人の男の寵を受けようと周囲が騒ぎ立て、そして、その中心の男がそれを当たり前のこととして受け入れる。

玉蓮の視線に気づいたのか、赫燕がふと彼女の方へと顔を向けた。長く黒い睫毛に縁取られた瞳が細められ、愉悦(ゆえつ)(たた)えた笑みが唇に浮かぶ。

「なんだ。不満でもあるのか?」

(あざけ)るようなその声に、熱が胸に広がり、喉が勝手に詰まった。

「——なんでもありません」

玉蓮は、その輪から距離をとるように、足早に歩き出す。