牙門が、悔しそうに地面を蹴った。

「くそ、なんでお頭ばっかり」

「……お頭と張り合おうなんて、無駄なことだ」

その光景を、少し離れた場所から見ていた朱飛が呟いた。頬杖をつきながら冷めた目を向けるその視線の先では、牙門が腕を組み、不満げに口を尖らせている。

「うっせーぞ! 張り合っちゃいねえが、なんでこうも、女はお頭のとこにばっかり行くんだかなァ!」

牙門のやけくそ気味な声に、迅がやれやれと首を振りながらその肩を力強く組んだ。

「当たり前だろー。お頭がいれば、女はみんな寄っていく」

「何が違うってんだ!」

「顔じゃん」

即座に答えた刹に殴り掛かろうとする牙門を、迅が大笑いしながら羽交い締めにして止める。刹は、鼻で笑い、涼しい顔で火を見つめている。

「格もな」

再び抑揚もなく言い放つ朱飛に、子睿が「的確ですな」と付け加え、ゆったりと頷いた。夜風が、その小さな声でさえも、玉蓮の元まで運んでくる。

「女はそーいったものに敏感なんだ。お頭はどっか品みてえなもんがあるからなー。お前らにはないもんがな」

肩に置いた迅の手を振り払いながら、牙門はさらに顔をしかめる。

「てめえにもないだろうが」

唇をへの字に曲げる牙門の様子を見た朱飛は、視線を火に戻しながら微笑んだ。