◇◇◇ 玉蓮 ◇◇◇

その夜、戦場での激しい戦いを終え、勝利の美酒に酔いしれる兵士たちの(とき)の声が響く中、玉蓮は一人、その喧騒(けんそう)から少しだけ離れた場所に身を置いていた。

彼女の視線が向けられた宴の中心では、鮮やかな化粧を施し、白い肌を(あら)わにした何人もの娼婦たちに赫燕(かくえん)が囲まれ、(かしず)かれている。踊る娼婦の足元には、戦場で返り血を浴びたままの兵士たち。

焚き火を囲む輪から、牙門(がもん)の野太い声が聞こえてくる。

「お頭ァ、こっちの酒も、飲んでくれよ!」

「いや、こっちだ! お頭は、俺の酒を飲むんだって!」

牙門(がもん)に負けじと、(じん)が自分の酒を赫燕(かくえん)の前に突き出す。二人は互いに一歩も引かず、言い争いを始めた。

周囲の兵士たちも笑い声を上げている。その横で、(せつ)が睨むように大きな瞳を牙門と迅に向けながら、ため息をついた。

「みっともね。お頭がそんな安酒、飲むわけないじゃん」

「なんだと、(せつ)! てめえの酒だって、同じだろうが!」

牙門が、顔を赤くして怒鳴り返す。三人の喧嘩は、戦より騒がしい。

焚き火の火の粉が彼らの影を伸ばし、子供のように取っ組み合っているように見えた。その言い争いを、子睿(しえい)が扇子で口元を隠しながら、にやにやと眺めている。

「酒も美味ですが……お頭が(たしな)むのは、もっと濃く甘い蜜でしょうな」

子睿の視線は、赫燕の膝の上で媚びるように身をすり寄せる娼婦たちへと向けられる。赫燕はまとわりつく娼婦をそのままに、気だるそうに目を細めている。