闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

「なんで迅のイカサマが分かったんだ? 俺は、今まで、どんなに集中しても一度も見抜けたことがねえのに。こいつは、本当に天性の詐欺師だと思ってたぜ」

 玉蓮は、地図から目を離さずに答える。

「集中していれば、誰でも気づくことです。問題は、牙門が迅のイカサマに乗ることを楽しんでいるから、見抜こうという意図が薄れているだけでしょう」

 牙門の図星を突いたようで、彼は「うっ」と呻き、反論の言葉を見つけられずに頭を掻いた。子睿は、また面白そうに、ふふふと笑い声を上げた。肘で迅の脇腹を小突きながら、口元にいたずらっぽい笑みを浮かべる。

「だそうですよ、迅さん」

「玉蓮に言わせると、牙門は俺のイカサマを楽しんでるってことだな! ま、あながち間違いでもねえ。これからも遊んでやるからな、俺の可愛い牙門ちゃんよ!」

 迅は、まるで勝ち誇ったかのように胸を張り、片目を閉じて笑いかけた。

「なーにが遊んでやるだ。俺が遊んでやってんだよ、このイカサマ師が」

 牙門は、即座に、心底うんざりしたという調子で言い返す。そして、ふいに視線を迅から隣に控える玉蓮へと移す。その目は、品定めするかのように、まじまじと玉蓮の顔を食い入るように見つめてくる。

「それにしても玉蓮、顔色悪くないか。いつもの白さじゃねえ。目の下に隈もできてるぞ。まともに飯食ってんのか? いや、それより、ちゃんと寝てんのかよ」

 牙門が大真面目な顔で覗き込んでくるものだから、玉蓮は息を呑んだまま固まってしまった。言えるはずがない。夜ごと、天幕の奥で何が行われているかなど。その沈黙をどう受け取ったのか、牙門はさらに「おい、まさか(やまい)か?」と身を乗り出す。

 その瞬間、横で酒を飲んでいた朱飛が、盛大にむせ返った。そして、助け舟を出すふりをして、その実、油を注ぐように子睿が口を挟む。

「全く、あなたは察しが悪い。お頭の傍にいて、ゆっくり眠れる日が来るとでも?」

「そういう意味で言ってねえよ。まあ、確かに今まで数人がかりで相手してたんだ。眠れる時間なんてねえか、がっはっは!」

 牙門は、豪快に笑い飛ばしたが、玉蓮は自分の首筋がじわりと熱を持つのがわかった。その熱は、止めどなく頬へと伝播していく。居心地の悪さに玉蓮が俯いた、その時。


「——おい、玉蓮」


 低く、よく通る声が、喧騒を一刀両断にした。