谷の出口で、反転した赫燕軍が、袋の鼠となった玄済(げんさい)兵を蹂躙(じゅうりん)していたのだ。そこに広がる光景は、もはや戦ではない。一方的な殺戮(さつりく)(もてあそ)び。

敵将の血で火照っていたはずの頬から、急速に血の気が引いていく。体の芯に残っていた熱が、まるで冷水を浴びせられたかのように、一瞬で凍てついた。

傷つき、命乞いをする甲高い声が、次の瞬間には断末魔の(うめ)きに変わる。それを、赫燕(かくえん)軍の兵たちは、笑いながら繰り返していく。

その刃が振り下ろされるたびに、血飛沫(ちしぶき)が宙を舞い、地面に染みを作る。煙の匂い、肉を裂く音、鮮血の色——それらすべてが一度に押し寄せ、玉蓮の喉を締め付けた。

「う、ぐっ…」

酸っぱい液が喉に逆流し、視界がにじむ。肩が震え、(こら)えるように唇を噛んだ。

姉を殺した国の兵だ。憎むべきものだ。その首が()ねられるたびに、快哉(かいさい)を叫ぶはずだった。胸がすくような思いで、この光景を見るはずだった。

だが、鼓動は跳ね上がるばかりで、喉に湧くのは血の匂いに混じる酸の味。