男の命が流れ出ていくのがわかる。じわりと、体の芯から熱が込み上げてくる。その熱が、体の奥で甘い痺れとなり、全身を満たしていく。嘘のように、身体が軽い。

だが次の瞬間、脳裏で姉の笑顔が揺らめき、喉の奥から吐き気のような震えがこみ上げた。

「あ、姉上……」

懐の鳥に触れるように胸に手を置くが、いつも温かいはずのそこには、全く温もりがない。玄済国の将を討ったというのに、姉の笑顔が血塗られたままだ。

玉蓮は、血に塗れた剣を払った。返り血が、頬を伝っていく。その生温かさが、まるで自分の肌の上ではないかのように、ひどく遠い。

「玉蓮、後は残りの部隊に任せる! 行くぞ!」

遠くから、(じん)の声が聞こえるはずなのに、玉蓮の視線は、血の海に沈む敵将の顔から離れなかった。

(敵将を討った。あいつの国の将を。姉上、玉蓮は強くなって、もっと——)

自分の息遣いだけが頭の中で響いて、その音がどんどん大きく、鼓膜を震わせるように響き渡る。


(もっと——)


「——玉蓮」


突如、凪いだ声が玉蓮の耳に届いた。これまで聞こえていた自分の呼吸音や、遠のいたはずの周囲の喧騒、血潮の音をすべて掻き消す声。

そこでようやく玉蓮は、その声がする方にゆっくりと顔を上げた。

「……朱飛」

彼の瞳はいつもと変わらず、夜の湖のように静かなまま。朱飛は玉蓮の乱れた髪をそっと払いのけ、頬に付着した血を指の背で拭った。その指が頬に触れた瞬間、胸を焚きつけていた熱が静かに引いていく。

「俺たちの役目は終わりだ。本陣に戻るぞ」

荒れていた呼吸が整い、視界に映る景色も、血の色から本来の色を取り戻していく。玉蓮の馬は、朱飛の馬を追いかけるように、自然と走り出した。