玉蓮の体は寝台に押し付けられ、太い指が喉元に食い込む。赫燕の瞳は開いているが、そこにあるのは虚無と殺意だけ。玉蓮ではない、誰か、敵を見ている目。
「——何してやがる!」
「……ぁ、お……か……」
喉にめり込む手に己の手を重ねたその時、天幕を揺るがすほどの雷鳴が轟いた。玉蓮の体が、びくりと震えると、赫燕の瞳の焦点が結ばれ、そこから殺気が霧散する。
首を絞めていた手がふっと緩む。玉蓮は、肺を必死に動かして喘ぐように咳き込みながら息をした。ぜいぜいと喉がなる。
彼は一度、大きく息を吐くと、糸が切れたように玉蓮の上に崩れ落ちた。のしかかる、男の身体。初めての重さと熱さに、玉蓮の心の臓がドクンと大きく跳ねる。
「何してんだよ、お前は」
「っ……うなされて、いた、からっ」
「……クソ」
赫燕は玉蓮の横にゴロリと横たわり、そしてまた、呼吸を整えるように深く重い息をつく。
玉蓮は体を起こして、赫燕を見下ろした。闇をぼんやりと見ていた瞳が向けられる。睨んでもいない。嘲ってもいない。——少しだけ悲しみを帯びた瞳。
彼の額に張り付いた髪をそっと払う。その熱い肌に触れる指先から、微かな痺れが走るような感覚が玉蓮の全身を駆け巡る。赫燕は、何も言わずに、玉蓮を見つめている。
後宮で見てきた、白粉と香の匂いをさせた宦官や、柔らかな絹の衣をまとった文官たちとは、何もかもが違う。
目の前の男にあるのは、酒と汗と、そして微かな鉄の香り。鍛え上げられた肉体から発せられる圧倒的な熱量。艶かしい顔立ちに宿る色気と、ならず者のような粗野な気配。そしてその全てを支配する、孤高の品格。
その危うい均衡の上に立つ存在から、目が離せない。この男に近づけば、身も心も焼き尽くされると本能が警鐘を鳴らしているのに、体は引き寄せられるかのように、彼の放つ熱に惹きつけられていく。
玉蓮は、本能のままに、彼の胸に顔をうずめた。その男の胸の熱さが頬にじわりと広がり、それと共にあの伽羅の香りが玉蓮を包む。汗と血の匂いと混じり合った、この男だけの香り。
そのあまりにも甘い香りに、思考が溶かされていく。意識の中で彼の熱だけが濃く、強く残った。

