戦が始まると、赫燕(かくえん)軍が、計算通りに崩壊を演じる。味方の兵が次々と討たれているのだろう。怒号と悲鳴が遠くから木霊する中、玉蓮は、与えられた道の入り口で、息を殺して潜んでいた。

土と草の匂いに混じり、遠くから漂う血の臭いが鼻をつく。心臓が早鐘のように鳴り、握りしめた剣の(つか)に汗が滲む。


やがて、玄済(げんさい)国の斥候(せっこう)が数騎、近づいてきた時、朱飛の合図と共に、玉蓮は草むらから飛び出した。姉の復讐を誓ったあの日から、毎日のように振り続けた剣が舞う。

剣が肉を断ち、骨を砕く、鈍い手応え。返り血の、生温かい鉄の匂い。斬り伏せられた男の瞳から光が消える、最後の一瞬。

震えるかと思った手は、一度も震えることなく、正確に敵兵の体を切り裂いた。その全てが、異様なほど鮮明に頭に焼き付いていく。


斥候を斬り伏せて、しばらくすると、後方から退却してきた赫燕の本隊が、玉蓮たちの眼下の道を通って谷奥へと消えていく。

やがて、玉蓮の瞳が、赫燕と牙門(がもん)の少し後ろに食らいつく敵将の姿を鮮明に捉えた。その隣で、(じん)が低く(うな)る。

「行くぞ、狩りの時間だ」