「おい、姫さん。お前は、朱飛の指揮下で、この道の入り口を死守しろ。敵の斥候(せっこう)一匹たりとも、近づけるな」

その言葉の重みが、ずしりと両肩にのしかかり、拳を握りしめた。しかし、彼の言葉はそれで終わらない。

「そこから——俺と牙門(がもん)を追って飛び込んでくる敵将の首を、(じん)の隊とともに仕留めろ」

重く、揺るぎないその命令が、玉蓮の鼓膜を震わせた。

(敵将の首を——?)

まだ一度も実戦を経験したことのない玉蓮は、すぐに言葉を返せずに赫燕を見つめ返す。

必殺の部隊である迅の隊に入り、その最前線で敵将の首をとる。頭の中でそれを繰り返すほどに、地が揺らぎそうになり、玉蓮は強く踏みしめることで、かろうじて頷きを返した。

指先は白くこわばり、血の気が引き、剣の(つか)に触れた指の感覚さえ曖昧になっていく。

「姫さんにそんなことできんのかよ」

それまで黙っていた(せつ)が、金色の柔らかな髪を揺らして、からりと笑い、いつものように場違いなほどに軽やかな声を響かせる。

「俺が弓で仕留めてやろうか」

「おい、刹」

朱飛が視線を向けることなく、名前を呼ぶ。刹は「はいはい」と言って、興味なさげに天幕の(すみ)にどさりと座る。

天幕に再び訪れた重い静寂の中、玉蓮の耳元では、自身の鼓動が何よりも大きく鳴り響いている。赫燕の瞳は、ただ静かに玉蓮を捉えたままで、そしてまたゆっくりと口を開く。

「いいな。俺の(いのち)は、お前次第だ」