なぜ、こんなにも荒々しい指先に、温もりを感じてしまうのだろう。なぜ、この温もりがこんなにも心を乱す。その矛盾に、さらに涙が溢れていく。目の前の漆黒の瞳を、見つめ返す。夜の闇そのものを閉じ込めたかのような瞳を。
「迷うな。その憎しみの行き場が欲しいんだろう」
彼は立ち上がり、玉蓮に背を向ける。
「お前が望むなら、俺が道を作ってやる」
見上げた先、闇のように深く、どこまでも孤独な男の背中と輝く月があった。赫燕はそれだけを告げると、再び闇の中へと消えていく。
その背が消えた先にあるのは、月すら飲み込むほどの昏道。そして、その道の入り口に、一人、玉蓮だけが残されていた。
冷たい風が吹き抜け、衣擦れの音が虚しく響く。涙を拭う間もなく、気配が差し込んだ。見上げれば、朱飛が闇を踏みしめて立っていて、銀色の耳飾りが鈍く、優しく輝く。
「……行くぞ」
いつもと変わらない低い声が、玉蓮の張り詰めていた意識を、現実に引き戻していく。
「……朱飛」
「なんだ」
「あの人は……あの人は、なんなのです。道を、作るなどと」
玉蓮は、絞り出すような声で呟いた。朱飛が、黙って、その震える肩を強く抱き寄せる。彼の指先から伝わる微かな温もりに、張り詰めていた玉蓮の体の力が、ほんの少しだけ抜けていく。


