玉蓮は、その光景にただ目を見張った。「降将(こうしょう)にも容赦なし」——塾で誰かがそう言っていた記憶が、ふっと浮いたからだ。

この男は、戦場においては、冷徹にして残虐な采配(さいはい)を振るう将軍のはず。捕らえた敵将であっても、その処遇(しょぐう)は常に苛烈(かれつ)を極め、情け容赦のない決断を下す、と。

だから、いつの間にか「殺戮将軍」と呼ばれている。

しかし、今、眼前で繰り広げられている光景は、聞いていた赫燕の印象とはかけ離れている。捕らえた敵将を丁重に扱い、その忠義に敬意を払う。その最期まで。

(この男は……)

だが、老将が兵士に連れられていき、その背中が見えなくなった、まさにその瞬間。赫燕は、残された捕虜たちに、まるで虫けらを見るような目を向けた。

「——片付けろ」

その氷のように冷たい一言で、彼の部下たちが、命乞いをする捕虜たちを天幕の外に連れて行き、そして何の躊躇(ちゅうちょ)もなく剣を振り下ろしていく。

悲鳴と、肉を断つ生々しい音が、あたりに響き渡る。目の前の男の(つや)やかな顔に浮かぶ、残忍な笑み。

(この男は一体なんなのだ……)

玉蓮の目の前、天幕の中の光と影が、まるで水の中のように歪んで見える。

どちらが、この男の本当の顔なのか。残虐な獣か、気高い王か。あるいは、そのどちらもが本当の顔なのか。

玉蓮が感じたのは、激しい眩暈(めまい)。自分が立っている大地そのものが、揺れているようだった。