闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

◇◇

 姉の婚礼の知らせが届いたのは、その年の春。

 分厚い扉の向こうで響く王の無機質な声は、いつ聞いても王のものでしかなくて、他の姉妹たちが言う「慈愛に満ちた父上」は一体いつになれば現れるのだろうと玉蓮(ぎょくれん)は首を傾げた。

「——玄済(げんさい)国へ、嫁がせよ」

 その声を聞いて、その言葉を聞いて、玉蓮は改めて悟る。あれは、国という巨大な歯車を回すための、冷徹な「王」という存在なのだ。

(父上ではない。あれは——ただの、王だ)

 足元を見れば、いつまでも洗いきれない汚れが染み付いた、自分の薄汚れた衣が目に入る。

(なら……わたくしたちは、一体なんだ?)

 茫然と立ち尽くす玉蓮の耳に、大臣たちの声がねっとりと絡みついてきた。

「贈り物が、宮女の腹を借りて生まれただけの公主で、事足りますかな」

「十分でしょう。玄済の王太子は『美しい器』を愛でるのがお好みだとか」

「なるほど、中身が空っぽでも、表面にひびさえなければ、半年は保つでしょうな」

 姉の命が、まるで市場で値踏みされる家畜のように扱われていく。公主でもなければ、娘でもない。ただの「姫」という名のついた、牛や馬。敵国の機嫌を取るためだけに投げ捨てられる、捨て石だ。

 だが、姉は、その決定を前にしても、怒り狂うこともなければ、涙を流すこともしなかった。玉蓮が喉を枯らして抗議しても、その手を握って泣き崩れても、姉はただ、いつものように静かに微笑んでいた。