「おい、こいつらを——」

「お待ちを、赫燕将軍」

傍らに控える兵士に捕虜を引き渡そうとした、その時。捕らえられた玄済(げんさい)の老将が、縛られた体でなお堂々と、しかしはっきりと赫燕を呼んだ。

その呼びかけに、赫燕(かくえん)はわずかに眉を動かす。そして、静かに老将に視線を向けた。

「我々は捕えられたのだ。この身がどうなろうと、拷問されようと文句はない。それは武人として当然の結末」

縄に繋がれた手首のまま老将の背筋は崩れず、声はひとつも震えない。瞳の黒は濁っていなかった。

「だが、一つだけ、将軍に願いたいことがある」

赫燕(かくえん)は、その言葉を黙って聞いていた。(まぶた)の線は動かず、杯の縁にかけた指は止まったまま。

「捕えられた兵の中に、まだ年端もいかぬ少年兵がいる。このような甘さを敵に願うなど、武人の風上にも置けぬ行為であることは重々承知している。しかし、どうか、あの少年だけは助けてはくれないか」

その言葉に、ぴくりと、ほんの微かに赫燕の表情が動いた、

「……あの汚らしい、下僕のような子供か」

「あれは、戦争で焼け落ちた村で拾った孤児だ。それさえ叶うのであれば、この命、惜しくはない」

「あんた、士族だろう」

「そうだ」

「なぜ、下僕などを助ける」

「……わからぬ……ただ、あの子の手を取った時、生きてほしい、そう思ったのだ」

頼む、そう呟くように告げて頭を下げる老将を、黙って赫燕が見下(みおろ)す。赫燕の瞳が、ほんの一瞬、どこか遠くを見つめた。