「こいつを切り刻んで臓物を引きずり出せば、残ったやつがもっと早く吐くぞ」

「ですが——!」

「あいつは、兵を拷問をするなと言ったか」

ぴくりと玉蓮の指が動く。

(先生は——)

「そんな甘いことを、劉義から教わったか?」

劉義は、一度も「拷問をするな」とは言っていない。そうだ、決して言っていないのだ。

「あいつは、真面目でお堅いが、誰よりも勝ちにこだわる。あいつは言ったはずだ。戦場で最も価値があるものは」

「……情報と時間」

「そうだ。悠長な尋問なぞ、時間の無駄。戦場で最も価値があるのは、情報と時間。どちらか一つでも失えば、死ぬのは俺たちだ」

震えが膝から上がってきて、呼吸だけが先に走った。胃の()から込み上げる吐き気。肉と鉄の匂いが喉に絡み、足元の縄の擦れる音だけが妙に大きい。

「復讐をしたい。だが、手は汚したくない。都合のいい話だな」

赫燕の言葉に、自身の吐き気に逆らうように、心の奥底で何かが熱く(うず)くのを感じた。

——違う。こんなやり方は間違っている。

そう頭では叫んでいるのに、魂のどこかが、彼の言う、血に(まみ)れた最短距離の道を「()」だと頷いている。玉蓮は赫燕の目をまっすぐに見返した。

目の前の赫燕は、玉蓮の反応を愉しむかのように口の端を吊り上げ、玉蓮の眼前に立った。

「いい顔になってきたな、姫さん」

赫燕はそう言うと、玉蓮の顎を持ち上げ、親指でゆっくりと一撫でした。

「お前も、この獣の巣の住人だ」

彼が甲冑の音を響かせながら(きびす)を返し、卓においてあった酒杯(しゅはい)を掴み、ひとつ煽った。