◇◇◇
午後、赫燕に呼び出された玉蓮は、天幕の中央を見つめていた。
そこには、縄で縛られ、転がされている数人の玄済兵の姿。彼らは、昨日捕らえられた捕虜たちだった。顔は腫れ上がり、呻き声すら上げられず、その体から漂わせるのは、生々しい血の匂いと絶望の臭気だけ。
赫燕は、まるでどこかの王のように椅子に深々と腰掛けて、卓に足を投げ出し、杯を傾けていた。
「こいつら、どうする」
無機質に落ちる赫燕の声。玉蓮の喉仏が、音もしないまま上下した。師の教えが一瞬、脳裏をよぎる。
——無辜の民を蹂躙する道具であってはならぬ。
確かに、目の前の者たちは無辜の民ではない。彼らは戦乱の世で、数多の血を流してきたであろう者たちだ。
だが、今まさに眼前に差し出された彼らは、正しく《《人間》》なのだ。苦痛に歪む顔、怯えに震える瞳。彼らの顔には、人間としての感情が確かに刻まれている。
玉蓮は拳を握りしめた。
「……尋問し、情報を引き出すべきかと」
赫燕は、玉蓮の声の震えを嘲るかのように、はっと乾いた笑いをこぼす。
「退屈だな。そんなやり方で、いつ玄済の王を殺れる? あの日、虫けら一匹、殺せなかったお前が」
「っ……わたくしは」
赫燕は、一人の捕虜の髪を掴み、その顔を玉蓮へと向けさせた。捕虜の瞳は、恐怖に大きく見開かれ、助けを求めるかのように玉蓮を見つめている。その瞳が、劉義の教えと、姉の最期の笑顔を同時に脳裏に蘇らせる。
目の前にいるのは敵国、玄済の兵。あの男の国の兵士だ。だが、同時に人間でもある。二つの重りが、天秤の両端で激しく揺れる。
午後、赫燕に呼び出された玉蓮は、天幕の中央を見つめていた。
そこには、縄で縛られ、転がされている数人の玄済兵の姿。彼らは、昨日捕らえられた捕虜たちだった。顔は腫れ上がり、呻き声すら上げられず、その体から漂わせるのは、生々しい血の匂いと絶望の臭気だけ。
赫燕は、まるでどこかの王のように椅子に深々と腰掛けて、卓に足を投げ出し、杯を傾けていた。
「こいつら、どうする」
無機質に落ちる赫燕の声。玉蓮の喉仏が、音もしないまま上下した。師の教えが一瞬、脳裏をよぎる。
——無辜の民を蹂躙する道具であってはならぬ。
確かに、目の前の者たちは無辜の民ではない。彼らは戦乱の世で、数多の血を流してきたであろう者たちだ。
だが、今まさに眼前に差し出された彼らは、正しく《《人間》》なのだ。苦痛に歪む顔、怯えに震える瞳。彼らの顔には、人間としての感情が確かに刻まれている。
玉蓮は拳を握りしめた。
「……尋問し、情報を引き出すべきかと」
赫燕は、玉蓮の声の震えを嘲るかのように、はっと乾いた笑いをこぼす。
「退屈だな。そんなやり方で、いつ玄済の王を殺れる? あの日、虫けら一匹、殺せなかったお前が」
「っ……わたくしは」
赫燕は、一人の捕虜の髪を掴み、その顔を玉蓮へと向けさせた。捕虜の瞳は、恐怖に大きく見開かれ、助けを求めるかのように玉蓮を見つめている。その瞳が、劉義の教えと、姉の最期の笑顔を同時に脳裏に蘇らせる。
目の前にいるのは敵国、玄済の兵。あの男の国の兵士だ。だが、同時に人間でもある。二つの重りが、天秤の両端で激しく揺れる。

