闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 残された玉蓮の耳に届くのは、天幕の奥から響く、淫靡(いんび)嬌声(きょうせい)。足元に転がる生首の血の臭いが、この広大な野営地に満ちた喧騒(けんそう)と混じり合い、玉蓮の鼻腔(びこう)をくすぐった。

 先ほど赫燕から与えられた熱は、その淫らな音に掻き消され、胃の()でどす黒い何かに変わっていく。指先が、いつの間にか冷たい土を強く握りしめていた。

 顔を(しか)めたままの玉蓮の頭に、朱飛(しゅひ)の大きな手がそっと置かれる。その手のひらから伝わる不器用な温かさ。見上げると、彼の目元がほんの少しだけ、緩んでいた。

「……昼間は、見事だった」

 柔らかい声。玉蓮の心に温かい雫のように染み渡り、強張っていた全身からほんの少しだけ力が抜けていく。

「お前が道を確保しなければ、策自体が危うかった。何より敵将を討ち取ったんだ。よくやったな」

 朱飛の労いの言葉に、一瞬だけ晴れやかになったかと思った玉蓮の心は、再び重く沈む。その視線は、すぐに嬌声(きょうせい)の漏れる赫燕の天幕へと向かう。

「……お頭は、やめておけ」

 朱飛の唇から漏れ出たようなその一言に、玉蓮が顔を上げる。

「わたくしは——」

「あの人は、光も闇も、全てを飲み込んで進む。言っただろう、喰われると」

「……そんなことは」

 そう言いながらも、赫燕の放つ圧倒的な何かに囚われ、その底知れぬ深淵に引きずり込まれていきそうな自分がいることも、頭のどこかでわかっている。否定の言葉は、唇の奥で燃え尽き、名付けられぬ熱だけが胸に残った。