闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

「まあ、あれこそ精悍(せいかん)な顔立ちってやつだからなー。女が放っておかねーわ。俺たちとは違う、高嶺の花ってやつだ」

 迅は手酌で酒を呷りながら、赫燕を見てどこか誇らしげに笑う。

 だが、その言葉は、玉蓮の張り詰めた神経を逆撫でする。玉蓮は、ぎゅっと唇を噛んだ。血が出るのではないかと思うほど強く。

(何が、女が放っておかないだ! あのような戦をするなんて——)

 脳裏に、先ほどの戦の残像が走る。敵を切り伏せた時にほとばしった血の匂い、そして、その後に起こった蹂躙(じゅうりん)

 玉蓮は、自分の手のひらを凝視した。石を握りしめすぎて、手のひらには石のざらつきと、汗の湿り気が残っている。まだ、その手のひらには、敵の心の臓を貫いた感触が焼き付いている。あの血の感触、漏れ出す命。

(将の首をとったのに。この手に、こんなにも感触が残っているのに!)

 それを、赫燕はまるで何でもないことのように、この場で女たちと戯れている。

 玉蓮は眉間に深い(しわ)を刻むと、再度、力任せに石を投げた。石は、栗色の髪の毛に吸い込まれていく。

「玉蓮! おまえっ、この」

 迅が叫ぶ。

 見かねたように朱飛が立ち上がり、表情を変えることなく歩み寄ってくると、玉蓮が投げようとした次の石を、彼の手が空中で掴み取る。石が朱飛の大きな手のひらに、パシィッ、と乾いた音を立てて収まった。

「あっ!」

 玉蓮は、はっとして手を引っ込める。朱飛は玉蓮の頭に、ごつんと自身の指をぶつけた。

「うっ……」

 そして、そのまま何の躊躇(ちゅうちょ)もなく玉蓮の隣に腰を下ろした。玉蓮は、朱飛の指が当たった額を撫でる。

「迅に八つ当たりをするな。何を怒っている」

 闇に溶け込むような朱飛の静かな声。玉蓮は顔を背けて、頬をさらに膨らませ、地面の小石を弄ぶ。

 何を怒っているのか、何がそんなに苛立たしいのか、自分でもわからない。でも、心が落ち着かなくて、忙しなくて、そのままにはどうしてもできない。

(あの男が、まるで王のように振る舞うからだ。だから——)

 血に塗れた敵将の顔も、込み上げてきた酸っぱい匂いも、響き渡る悲鳴も、全てが玉蓮にとっては、あまりにも大きなことなのに。あの男は少しも意に介していない。

「……なんでもありません」

「……そうか。まだ、ガキだったな」

「子供ではありません。十六になりました」

「十分ガキだろ」

「違います!」

 ふ、と朱飛が笑みをこぼす。朱飛の笑みから逃れるように、玉蓮は膝を抱える腕にぐっと力を込めた。耳の縁が、じんと熱くなる。地面の小石の数を数えるふりをして、彼の視線から必死に顔を隠した。隣にいる朱飛からは、微かに土と鉄の、落ち着く匂いがした。