復讐姫と二人の英雄 —殺戮将軍と天才軍師の執着。その天命の盤で美しく狂い咲く—

 暗がりに座り込んだ玉蓮は、膝を抱えた。宴の輪から逃げ出したものの、結局、行くあてなどどこにもない。どれだけ頭を振っても、赫燕(かくえん)(まと)わりつく女たちの声が耳に届く。あんなものを聞きたくもないのに。

 玉蓮は、地面の小石を手当たり次第に拾い上げ、遠くの栗色の髪に向かって投げつけた。

「いて、いて! 何すんだ玉蓮、お前! 石を投げんな!」

 (じん)が遠くから叫ぶ。その横で、牙門(がもん)がガハハと大きな声で笑い、迅を指差した。

「お前の栗みてーな色の髪は、いい的だな」

「お前のその石頭じゃ、石も跳ね返っちまうからなー」

「このやろォ! 迅、てめえ!」

 再び始まった牙門と迅の小競り合い。この男たちは本当に声が大きいのだ。どれだけ距離をとっても、宴の熱気が耳に届く。

 (せつ)が大袈裟にため息をついて、玉蓮に視線を投げた。

「玉蓮、こいつらがうるさくなるだけじゃん。何してんだよ!」

「だって!」

「そうだ! 俺じゃなくて、刹の金髪に投げればいいだろー」

 迅の言葉に、刹の金色の髪がぴくりと揺れる。

「玉蓮は、可愛い顔の俺には投げないって」

「はあ!?」

 それまで言い合っていた二人の声が、まるで雷鳴のように響き渡る。そんな様子もお構いなしに、刹は悪戯っぽく笑いながら、酒を口に運ぶと、ふふん、と鼻を鳴らす。

「お頭だけじゃない、俺にだって女は寄ってくるんだよ。お前らと違ってな」

「なんだと!」

 挑発的な刹の言葉に、牙門と迅が額に青筋を立てている。子睿が口元に笑みを浮かべ、朱飛(しゅひ)だけが静かな瞳を焚き火に向けていた。

「刹、やめとけ。お前が(あお)ってどうする」

「なんだよ、朱飛だって女に困ってないじゃん」

「え、いや、俺は別に」

 刹に言い返されて、すぐさま静かになる朱飛。

 その言い合いに、やれやれとでも言いたげに子睿(しえい)が首を横に振る。

「いいですか。皆さんは、所詮、似たり寄ったり。目くそ鼻くそです」

 子睿の容赦ない言葉に、牙門が「ひでえな」と嘆く。

「お頭は特別なのですよ。西を統べる、我らが大王様でさえ、お頭の才だけでなく、その風采(ふうさい)に惚れ込んでるという噂ですからね。だから、うちは特別な軍なのです」

 子睿の言葉を聞いて、その場にいた全員が、いまだ女たちに囲まれている赫燕に視線を向けた。赫燕は、戦場での冷酷な「殺戮将軍」の顔とはまるで違う、鷹揚(おうよう)とした、人を惹きつける華やかな色を纏っている。