「うっせーぞ! 張り合っちゃいねえが、なんでこうも、女はお頭のとこにばっかり行くんだかなァ!」
牙門のやけくそ気味な声に、迅がやれやれと首を振りながらその肩を力強く組んだ。
「当たり前だろー。お頭がいれば、女はみんな寄っていく」
「何が違うってんだ!」
「顔じゃん」
即座に答えた刹に殴り掛かろうとする牙門を、迅が大笑いしながら羽交い締めにして止める。刹は、鼻で笑い、涼しい顔で火を見つめている。
「格もな」
再び抑揚もなく言い放つ朱飛に、子睿が「的確ですな」と付け加え、ゆったりと頷く。夜風が、その小さな声でさえも、玉蓮の元まで運んでくる。
「女はそーいったものに敏感なんだ。お頭はどっか品みてえなもんがあるからなー。お前らにはないもんがな」
肩に置いた迅の手を振り払いながら、牙門はさらに顔をしかめる。
「てめえにもないだろうが」
唇をへの字に曲げる牙門の様子を見た朱飛は、視線を火に戻しながら微笑んだ。
玉蓮は彼らに向けていた視線を再び赫燕に戻して、変わらず繰り広げられている光景に顔を顰めた。
赫燕の耳元に寄せられる、濡れたように赤い唇。耳の奥をざらつかせる、彼女たちの笑い声。息を吸えば、甘ったるい香が喉に張り付く。
後宮で繰り広げられる光景となんら変わらない。一人の男の寵を受けようと周囲が騒ぎ立て、そして、その中心の男がそれを当たり前のこととして受け入れる。
玉蓮の視線に気づいたのか、赫燕がふと彼女の方へと顔を向けた。長く黒い睫毛に縁取られた瞳が細められ、愉悦を湛えた笑みが唇に浮かぶ。
「なんだ。不満でもあるのか?」
嘲るようなその声に、熱が胸に広がり、喉が勝手に詰まった。不満はある。あるに決まっている。だが、それを言葉にする術を玉蓮は持たない。いや、胸に渦巻くこの感情に、どう名前をつければいいのかわからないのだ。
「——なんでもありません」
玉蓮は、その輪から逃れるように、足早に歩き出した。背後で、女たちの甲高い笑い声が弾けた。

