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翌日、玉蓮は昨夜つけられた腕や脚の痣と擦り傷に、薬を塗っていた。生々しい痛みが、昨夜の出来事を鮮明に蘇らせる。思い出せば思い出すほどに、恥ずかしくて、悔しくて、いつもはどうということもない薬が傷口に沁みる。

その時、天幕の入り口から「入るぞ」と声が届き、朱飛(しゅひ)が静かに姿を現した。

彼は無言で、温かい粥の入った器と上等な傷薬を彼女の前に置く。その器から立ち上る温かい湯気に、玉蓮は詰めていた息を漏らした。

「ありがとうございます……」

「ああ。昨日の男は、処分した」

ただ空気を震わせただけのような朱飛の声に、玉蓮は顔を上げた。

「俺たちはお前を迎える。お前は……お頭に近づきすぎるな」

朱飛は、玉蓮からふいと視線を逸らし、天幕の影に目をやった。

「……喰われるぞ」

吐き捨てられたその言葉は、あまりに静かで、玉蓮は一瞬聞き返そうかと思ったが、視線の先にある横顔に刻まれた苦渋の色に、思わず息を呑み、唇を横に結んだ。

黙って、朱飛が持ってきた傷薬を塗る。ひんやりとした軟膏が擦り傷に触れると、わずかな痛みが走る。布を巻き始めると、朱飛が小さくため息をついた。

「貸せ」

唐突に手が伸びてきて、玉蓮の手から布が抜き取られる。

「こんなこともできないのか」

「……できないわけではありません。ただ少し、苦手なだけで」

語尾に向かっていくにつれて声が小さくなる。