赫燕の声が、玉蓮の心の臓に直接響く。背筋を駆け上る冷たさとは裏腹に、腹の底では何かが熱く燃え上がる。

足は退けと叫ぶのに、胸の奥では別の声が奥底を覗けと囁いている。彼の瞳の奥に宿る、どこか獣じみた光が、玉蓮の奥底に潜む暴力的な衝動を刺激する。

赫燕は、玉蓮の瞳の奥を確かめたかのように、満足げに口の端を吊り上げると、踵を返した。

「そいつを殺すか殺さないかは、お前が決めろ」

闇に消えていく背中。

その言葉は、足元で(うずくま)っている男を指している。玉蓮は、前に出したままだった剣を今度はゆっくりと足元に向ける。その指先が白くなるほど、強く、強く、握りしめながら。

(殺してしまえ)

女を襲うような奴など、殺してしまえばいいとそう思うのに、指が震え、切先は細かに揺れる。

「くっ……」

握りしめた剣先は、結局、土を切っただけだった。振り返らずに歩き出すと、呻き声が闇に遠のいていった。