その距離が縮まるごとに、玉蓮の心の臓は燃え盛るように激しく高鳴る。しかし、彼女は一歩も引かず、その場に両足を留めた。

「だが……」

赫燕は、玉蓮の耳元に顔を寄せると、誘惑するように甘く、底知れない冷たさを秘めた声で囁いた。

「その程度の悲鳴じゃ、玄済(げんさい)の王は喜ばねえぞ。あれはもっと、魂ごと引き裂くような叫びを好む——」


——シャリン。


静寂を切り裂く、硬質な金属音。いつの間にか(さや)から抜き放った玉蓮の剣が、男の顔の前で鈍い光を揺らめかせる。

「——黙れ」

喉の奥から絞り出したのは、人の声ではなかった。()てついた湖が、(きし)んで割れるような音。

四肢を切り落とされ、皮膚を()がされた姉を想像したくもないのに、脳裏に真っ赤に血塗られていく姉が浮かぶ。血が沸騰する。その熱で、血管が引き裂かれそうだ。

ぶるぶると震える剣を前に、赫燕は、さらに一歩踏み込んだ。

「なっ——」

「いいか」

剣の刃が赫燕の喉仏に触れて、微かに血が滲み出しているのに、目の前の男はただ玉蓮を見下ろしている。

「復讐だなんだと口にするなら、牙を()け。食い殺される前に、食い殺せ。お前のその綺麗な爪じゃ、まだ誰も殺せねえぞ」

その体から発せられる圧が、周囲の空気を歪ませ、呼吸すら困難にさせる。

それは、戦場で浴びたであろう血と鉄の匂い。それに混じる、あの伽羅(きゃら)の香り。そして、何よりも、この男自身の肌から発せられる、抗いがたい匂い。