闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

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 後宮の最果て、陽光に見捨てられた隅の部屋。そこが、玉蓮(ぎょくれん)と姉のすべてだった。とうに死んだ母は、王の気まぐれで寵を受けただけの後ろ盾もなき宮女。そんな女から産まれた二人は、影のようにひっそりと生きてきた。

 遠くで催されている宴の琴の音と姉妹たちの笑い声。それらが耳に届くのに、玉蓮の鼻をかすめるのは、湿った黴と降り積もった埃の臭いだけ。灯りの暖かそうな色が、墨を落としたように玉蓮の心をじわりと黒く染めていく。

 玉蓮は小さな指先で、ささくれた寝台の木枠を、爪が白くなるほど握りしめた。

「玉蓮、見て。お星様が綺麗ね」

 寝台に腰かけた姉が指をさした先、墨を流したような夜空に星々が微かに震えていた。

「……玉蓮は、お星様は好きではありません」

 姉の細い腕の中に顔を埋めたまま、玉蓮は吐き捨てるように呟いた。

「あら、何を言うの。あんなに美しいのに」

 姉の指先が玉蓮の髪を梳く。その柔らかな動きが心地よくて、けれど意地を張るように、その手の下でふるふると首を横に振った。

「お星様は温かくありません。玉蓮は、姉上が良いです。姉上がこうして、玉蓮を腕の中に入れてくださる時間が好きです」

 体温、声、香り。何よりも、誰よりも大好きな姉の全てが玉蓮の傍にある。もっと、と強請(ねだ)るように目を閉じ、目の前の衣にぐりぐりと頭を擦り付ければ、姉はくすくすと笑いながらも、玉蓮を抱きしめるその腕にさらに力をこめてくれる。

「お前って子は、本当に。誰に似て、こんなに気が強くなったのかしら」

 この腕の中にいる間だけは、冷たい石壁も、疎ましい琴の音も、自分たちが「余り物」である現実も、すべてを忘れることができる。

(あったかい……姉上)

 手を離せば、この温もりさえ消えてしまいそうで。玉蓮は姉の擦り切れた衣を固く握りしめ、まぶたをちぎれるほど強く閉じた。