闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。



 玉蓮(ぎょくれん)が息を切らしながら味方の陣地へと戻ると、そこには、牙門(がもん)が待ち構えていた。熊のような巨体で地を揺らしながら駆け寄ってくると、その大きな手で玉蓮の肩を乱暴に叩く。

「おい、玉蓮!」

「いたっ。牙門(がもん)、痛いです!」

「本当にやりやがったな!」

 その声は、いつものような野太い響きではなく、少しだけ上擦っている。牙門(がもん)の隣では、(じん)が血のついた双刀を(さや)に納めながら、笑みを浮かべている。

「腰が引けて、剣先が震えてたがなー。まあまあじゃねえの」

 血の匂いがする手で、玉蓮の頭を乱暴に撫で付けるから、玉蓮は頬を膨らませてその手を払う。

「髪が汚れます」

「はあ!? お前な、すでに血まみれだっつーの! こうしてやる!」

「な、何をするのです!」

 迅は、玉蓮の頭を長い腕で抱え込み、さらに自分の甲冑(かっちゅう)についたべっとりとした返り血をそこに擦り付ける。鼻腔(びこう)を塞ぐ、濃厚な鉄の臭い。他人の血の脂が、肌に張り付く感触。

「おやおや、これはこれは。なかなかの手際だったようで」

 三人が(たわむ)れていたところに、馬に乗った子睿(しえい)が音もなく背後から忍び寄っていた。

「初の武勲、おめでとうございます。ですが、姫様。本当の地獄は、ここからです。お頭の、あのやり方をその目で、とくとご覧なさい」

 子睿の声音は、戦場の喧騒(けんそう)とはかけ離れ、まるで遊技を楽しむかのような軽薄さを含んでいる。その視線が、玉蓮の背後に広がる戦場の奥へと向けられる。

 振り返った玉蓮の目が、見開かれた。