しばらくすると、静かなるその空間で、微かな足音が玉蓮の耳に届いた。草を踏む乾いた音、そして、小石が転がるような小さな音。徐々に近づいてくるその音に、玉蓮は顔を上げて周囲を見渡した。
急いで立ち上がり、自身の天幕に向けて足を踏み出した瞬間、その足音が大きくなる。
「おい、女がいるぞ」
物陰から数人の兵士が影をともない現れる。
「娼婦か?」
「とっ捕まえたやつが逃げ出したんじゃねえか」
さらに後ろからも野太い声が届き、下卑た笑い声が追い打ちをかけるように響く。
咄嗟に腰元の剣に伸ばした腕。だが、それを手にするよりも早く腕を掴まれ、乱暴に引き倒された。土埃が舞い上がり、口の中に砂の味が広がる。
「っ——」
玉蓮は反撃の姿勢をとろうと全身に力を入れた。長年の訓練で叩き込まれたはずの動きが、頭では完璧に再生される。しかし、それが届かない。動けと命じても、腕も脚も石のように硬直したままだ。
耳の奥で心臓の音だけがやけに大きく響き、男たちの下卑た笑い声は、分厚い水の底から聞こえてくるかのように、遠い。開いた唇からは、喉元で途切れるような悲鳴だけが漏れた。
(動け、動け、動け——)
急いで立ち上がり、自身の天幕に向けて足を踏み出した瞬間、その足音が大きくなる。
「おい、女がいるぞ」
物陰から数人の兵士が影をともない現れる。
「娼婦か?」
「とっ捕まえたやつが逃げ出したんじゃねえか」
さらに後ろからも野太い声が届き、下卑た笑い声が追い打ちをかけるように響く。
咄嗟に腰元の剣に伸ばした腕。だが、それを手にするよりも早く腕を掴まれ、乱暴に引き倒された。土埃が舞い上がり、口の中に砂の味が広がる。
「っ——」
玉蓮は反撃の姿勢をとろうと全身に力を入れた。長年の訓練で叩き込まれたはずの動きが、頭では完璧に再生される。しかし、それが届かない。動けと命じても、腕も脚も石のように硬直したままだ。
耳の奥で心臓の音だけがやけに大きく響き、男たちの下卑た笑い声は、分厚い水の底から聞こえてくるかのように、遠い。開いた唇からは、喉元で途切れるような悲鳴だけが漏れた。
(動け、動け、動け——)

