布を一枚めくった先は、絹が擦れ、香が焚かれる後宮とは何もかもが違う、剥き出しの世界。
草木の匂い、土の感触、遠くで響く獣の鳴き声。穏やかな風も、澄んだ夜空も、そして篝火の匂いも。肌に降り注ぐ全てが、後宮の床の上では、決して感じることのできないものだった。
「……すごい」
自然と足が前に進む。兵士たちのわずかな物音や、馬の嘶きが聞こえるが、それらもまた、この世界の一部として溶け込んでいく。
やがて、少しひらけた小高い丘を見つけると、玉蓮はゆっくりと腰を下ろした。都では決して手に入らなかった静けさが、まるで霧のように玉蓮の周囲を包んでいた。
ゆっくりと顔を上げると、見上げた先には、夜空を埋め尽くすように瞬く星々。姉と見上げていた、あの日の夜が今もなお、鮮やかに蘇る。声も、匂いも、その温もりも。
姉の温かな腕を思い出して、懐にしまった木製の鳥ごと抱きしめるようにして、自分の膝を抱えて頬を擦り付ければ、「玉蓮」と微笑む声が頭の中に響いた。
「姉上……」
ぽつりと呟いた声が、闇にふわりと溶けて消えていく。どんなに求めても、どんなに焦がれたとしても、その温もりが戻ってくることはない。
だから、恋しさを掻き消すように、玄済国の王都・呂北を心のうちで焼き尽くした。
草木の匂い、土の感触、遠くで響く獣の鳴き声。穏やかな風も、澄んだ夜空も、そして篝火の匂いも。肌に降り注ぐ全てが、後宮の床の上では、決して感じることのできないものだった。
「……すごい」
自然と足が前に進む。兵士たちのわずかな物音や、馬の嘶きが聞こえるが、それらもまた、この世界の一部として溶け込んでいく。
やがて、少しひらけた小高い丘を見つけると、玉蓮はゆっくりと腰を下ろした。都では決して手に入らなかった静けさが、まるで霧のように玉蓮の周囲を包んでいた。
ゆっくりと顔を上げると、見上げた先には、夜空を埋め尽くすように瞬く星々。姉と見上げていた、あの日の夜が今もなお、鮮やかに蘇る。声も、匂いも、その温もりも。
姉の温かな腕を思い出して、懐にしまった木製の鳥ごと抱きしめるようにして、自分の膝を抱えて頬を擦り付ければ、「玉蓮」と微笑む声が頭の中に響いた。
「姉上……」
ぽつりと呟いた声が、闇にふわりと溶けて消えていく。どんなに求めても、どんなに焦がれたとしても、その温もりが戻ってくることはない。
だから、恋しさを掻き消すように、玄済国の王都・呂北を心のうちで焼き尽くした。

