獣の巣のような天幕の中。男たちの汗と酒、そして獣めいた昂ぶりの残りかすが混じった空気に、玉蓮の肺が押し潰されそうになる。

都の外に出たのはこれが初めてだというのに、こんなにも小さな天幕の布に囲まれると、自分の輪郭までも縮んでしまうようだ。

瞼の裏に浮かぶ赫燕の瞳に、赫燕の指の感触に、胸の奥の炎がじわりと陰に呑まれ、炎が揺らぐ。風のせいでもないのに、その勢いが頼りなくなった気がして、玉蓮は思わず顔をしかめた。

(——玄済国王(あの男)を必ず。決して怯むな)

玉蓮は、顔を上げると天幕の入り口をみやった。少しだけざわめきが遠のいた外の空気を感じて、音を立てずに入り口へと近づく。

布をそっと持ち上げて様子を見れば、外はすでに闇に包まれていて、遠くで揺らめく炎の微かな光が、ぼんやりと周囲を照らしているのがわかる。兵士たちの姿もまばらなようだ。

ほんの少し、外の空気を吸うだけ。都の外の夜の空気を、肌で感じるだけ。幼い頃から鍛え抜かれたこの身一つあれば、並の男に遅れをとることはない。獣の巣に飲み込まれて、息を潜めて怯えるなど、復讐を誓った己がすることではない。

ここは、玉蓮が公主である白楊の軍営——その肩書きに、ほんの少しでも意味があるなら、恐れるものなどあるはずがないのだ。

朱飛の忠告が脳裏をよぎるが、玉蓮はそれを頭の中から振り払うように、一歩、外へと踏み出した。