天幕のわずかな油灯(ゆとう)の光が、男の首元で鈍く輝く、二つの紫の石に吸い込まれていく。

また、彼の足元に立てかけられている大剣の柄頭(つかがしら)にも、男の首元で揺れるものと瓜二つの、深い紫の石が嵌め込まれていた。

無頼漢と言われるような男にはおよそ不釣り合いなほど、洗練された意匠(いしょう)が施されたそれらは、光を貪るように吸い込んで妖しく揺らめき、目の前の男と同様に異質なものとして、この天幕を支配するように存在している。

一秒が、一刻に感じるほどの、重い沈黙。玉蓮は、その気高い紫の輝きから目が離せずに、ただそれを見つめていた。

やがて、まるで思い出したかのように、男が顔も上げずに低い声で告げた。


「——来たか」


玉蓮の存在など、取るに足らぬとでも言うように響く声。

肺がうまく動かず、喉の奥で息がつかえる。心臓が、肋骨の内側で不規則に暴れ出す。息を吸うことさえ、この男の前では許されないとでも言われているように。

そしてようやく、男はゆっくりと顔を上げた。

——赫燕(かくえん)

その名は、玉蓮の唇で音もなく紡がれた。