闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。



 翌朝。差し込む光で目が覚めた玉蓮は、開ききっていない目蓋(まぶた)のままで、いつものように枕元に手を伸ばした。

「んん……」

 姉の形見である、あの鳥に触れる。それが、毎朝の儀式だったからだ。そして、いつものように、そのひびの入った翼をなぞろうとして——指先が、つるりと滑らかな感触に行き当たった。

「——え?」

 指先に伝わったのは、あのざらつきではなく、磨かれた木肌のなめらかさ。飛び起きて、それを凝視する。割れていたはずの翼が、綺麗に繋がれている。失われていた欠片の代わりに、色味の似た美しい木片が嵌め込まれ、境目がわからぬほど丁寧に磨き上げられていた。

「これは……」

 新しい木肌から、微かに木の香りがする。玉蓮は鳥を握りしめ、天幕を飛び出した。

 朝日が降り注ぐ野営地の中心では、男たちが焚き火を囲み、朝食を摂っていた。立ち上る煙の向こうに、玉蓮はすぐにその人物を見つけた。

 朱飛は、静かな佇まいで、粥を(すす)っている。だが、よく見れば、その袖には細かな木の切り屑がついており、目元は寝不足のように赤く充血している。

 玉蓮の姿を認めた朱飛の肩から、ほんのわずかに力が抜けたように見えた。そして、その視線がごく自然に、彼女が胸に抱いている鳥へと注がれる。

「……大丈夫か」

 朱飛の声は、静かだ。それが玉蓮の心にじんわりと染み渡り、張り詰めていた全身の筋肉を(ほど)いていく。瞳も、声も、その周りの空気さえも。それが、一晩かけてこの鳥を直してくれた時間そのもののようだった。

「朱飛……」

 呼んだ声は、自分でも驚くほど弱々しい。喉の奥が詰まり、息がうまくできない。

「……ありがとう、ございます」

 やっと絞り出した言葉は震えている。朱飛は何事もなかったかのように、その瞳を柔らかく細めた。

「お前もこっちに来て、飯食え。行軍が始まるぞ」

 玉蓮は頷き、朱飛の隣に腰を下ろした。簡素な(かまど)の上では、土鍋が湯気を立てている。

 そっと朱飛の横顔を見上げた。彼はやはり、夜風のようだ。その眼差しはどこまでも穏やかに()いでいる。いつの間にか玉蓮の瞳から一雫だけ、涙がこぼれ落ちる。

 拭おうとしたその時、ごつごつした大きな手が伸びてきた。硬い親指の腹が、乱暴に、けれど驚くほど優しく、その涙をぬぐい去った。