城門を抜けると、世界の色彩が変わった。

整然とした石畳の道は、やがて(わだち)の刻まれた土の道となり、赫燕(かくえん)軍の屯所(とんしょ)が近づくにつれ、空気は血と鉄の香りを帯びていく。

辿り着いた先、紫紺(しこん)地に金の飛龍の(はた)がいくつも(ひるがえ)るそこは、軍の駐屯地というより、野獣の群れが(うごめ)く巣のようだった。

規則も規律もない。けたたましい酒盛りの声と乾いた賭博の札の音。もうもうと立ち上る土埃と男たちの汗、そして決して消えることのない微かな血の臭いとが混じり合う。

あちこちで兵士たちが笑い声を上げながら武器の手入れに興じ、その顔に刻まれた深い傷跡と、獲物を探す狼のような瞳が、見る者に声なき威圧をかけてくる。

その荒々しい獣たちの群れの中に、玉蓮はただ静かに立っていた。

薄紫の衣を纏った自分が、この土埃に(まみ)れた世界で、ひどく浮き上がっているのがわかった。無数の視線が、まるで粘り気のある手のように、衣の上から肌の輪郭をなぞっていく。