呼応するように、窓の絹帳に火が燃え移った。一瞬にして炎が這い上がり、太后の背後に紅蓮の壁を作る。熱波が玉蓮の頬を打ち、呼吸のたびに肺が焼けつく。
「殺せ……お前の愛した男も、お前の夫も、私の盤上で殺してやった! 憎いだろう。その匕首、それはかつての我が夫が延に遺したもの。その剣を、今すぐこの喉笛に突き立てろ!」
太后は、両手を広げ、血に飢えた獣のように玉蓮を睨みつけた。背後の炎が逆光となり、その姿を黒い影へと変える。
玉蓮は喉の渇きを覚えながら、静かに息を吐き出した。愛する者たちの死の記憶が脳裏を駆ける。だが、玉蓮は匕首を強く抱きしめると、静かに首を横に振った。
「——わたくしは、貴女様を殺しません」
「……なぜ、だ」
メリメリと、頭上の太い梁が悲鳴を上げる。火の粉が雪のように二人の間に降り注いだ。
「——詰みです、太后様」
玉蓮は立ち上がり、盤に背を向けた。足元には、飛び散った碁石。一度だけ振り返り、あの男と同じ、すべてを呑み込むような不敵な笑みを浮かべる。
「この盤面は、我らの王、赫燕が描いた天命の盤。貴女という駒は、誰の手にも掛からず——ここで燃え尽きる」
太后は、呆然と立ち尽くしている。言葉を失い、駒を失い、そして命さえも誰にも奪われることのないまま、迫り来る炎の壁を見つめている。
玉蓮は、太后の視線を振り切り、崩れた扉の前に立った。その先は地獄の火の海。宮殿全体が巨大な火の塊と化し、紅蓮の炎が視界を埋め尽くしている。
生きてここを脱せるか。一瞬の恐怖がよぎる。だが、玉蓮は走り出した。自分にはまだ、果たさなければならない約束がある。
(——生きるのだ。必ず)
崩落する宮殿。落下する梁をかわし、噴き出す煙の中を突き進む。逆巻く黒煙が肺を焼き、意識が遠のきかける——それでも脚は止まらない。
炎の揺らめきの中に、二人の男の姿が見えた気がした。不敵で、どこまでも優しい笑みが、玉蓮の背中を押す。玉蓮は、光の方へ、生の方へと、全力で駆け抜けていった。
「殺せ……お前の愛した男も、お前の夫も、私の盤上で殺してやった! 憎いだろう。その匕首、それはかつての我が夫が延に遺したもの。その剣を、今すぐこの喉笛に突き立てろ!」
太后は、両手を広げ、血に飢えた獣のように玉蓮を睨みつけた。背後の炎が逆光となり、その姿を黒い影へと変える。
玉蓮は喉の渇きを覚えながら、静かに息を吐き出した。愛する者たちの死の記憶が脳裏を駆ける。だが、玉蓮は匕首を強く抱きしめると、静かに首を横に振った。
「——わたくしは、貴女様を殺しません」
「……なぜ、だ」
メリメリと、頭上の太い梁が悲鳴を上げる。火の粉が雪のように二人の間に降り注いだ。
「——詰みです、太后様」
玉蓮は立ち上がり、盤に背を向けた。足元には、飛び散った碁石。一度だけ振り返り、あの男と同じ、すべてを呑み込むような不敵な笑みを浮かべる。
「この盤面は、我らの王、赫燕が描いた天命の盤。貴女という駒は、誰の手にも掛からず——ここで燃え尽きる」
太后は、呆然と立ち尽くしている。言葉を失い、駒を失い、そして命さえも誰にも奪われることのないまま、迫り来る炎の壁を見つめている。
玉蓮は、太后の視線を振り切り、崩れた扉の前に立った。その先は地獄の火の海。宮殿全体が巨大な火の塊と化し、紅蓮の炎が視界を埋め尽くしている。
生きてここを脱せるか。一瞬の恐怖がよぎる。だが、玉蓮は走り出した。自分にはまだ、果たさなければならない約束がある。
(——生きるのだ。必ず)
崩落する宮殿。落下する梁をかわし、噴き出す煙の中を突き進む。逆巻く黒煙が肺を焼き、意識が遠のきかける——それでも脚は止まらない。
炎の揺らめきの中に、二人の男の姿が見えた気がした。不敵で、どこまでも優しい笑みが、玉蓮の背中を押す。玉蓮は、光の方へ、生の方へと、全力で駆け抜けていった。

