復讐姫と二人の英雄 —殺戮将軍と天才軍師の執着。その天命の盤で美しく狂い咲く—

「どうせ、この国は沈む。そうだろう、白楊(はくよう)の華よ」

「おっしゃるとおりです、太后(たいこう)様。奇しくも、貴女様が流行らせてくださった白菊の童歌(わらべうた)のように、家も、国も、火に飲み込まれましょう」

 太后(たいこう)は心底おかしいとでも言いたげに、高く笑い声を上げた。その狂ったような響きが、室内に反響する。

「はっ、それにも気づいておったか」

「『白菊の花弁に触れたなら、国は紅に染まる』……そう定めたのは、貴女様です」

「いかにも。早く逃げねば、そなたも焼け死ぬぞ。すでに白い衣が血に(まみ)れて……」

 太后の視線が、玉蓮のはだけた胸元に吸い寄せられた、その瞬間。彼女の能面のような無表情に、ピキリと亀裂が入った。

「——なぜ、それを! なぜ、そなたが持っている!」

 玉蓮は答えず、胸元の(つい)の紫水晶を指先で包み込んだ。

(つい)の紫水晶。夏国(かこく)の王が()いていた国宝。私がその首を()ねた時には、もうその首元にはなかった。貴様、どこで手に入れた」

「これは……私の大切な人が遺したものです」

「……誰だ」

「——白楊(はくよう)国・大将軍、赫燕(かくえん)

 太后は目を見開き、そして、玉蓮が懐から取り出したもう一つのもの——あの匕首に視線を動かした。

(えん)……(えん)か! あやつ……生き延びておったのか。あの燃える城から。蘇月(そげつ)め、よくも私を出し抜き、(えん)を逃したな」

 彼女の喉から、ぜいぜいと焦燥の混じった空気が漏れる。

「なぜ、我が子を殺そうとしたのですか……なぜ国を裏切ったのです!」

 玉蓮の問いに、太后は、初めて完璧な氷の仮面をかなぐり捨てた。

「あの国が、私に何をしてくれた! あの男が、私に何をもたらした!」

 その美貌が、憎悪で醜く歪む。

 ズゥン、と腹に響く低い音が鳴り、壁に亀裂が走った。隙間から漏れ出した黒い煙が、天井の美しい装飾画をどす黒く塗り潰していく。

「私は、(せん)国からあの国に贈られた。牛や馬と同じ、姉の『おまけ』としてな! 理由がわかるか? 私は子を宿すための道具、姉のためのただの『腹』だ!」

 血を吐くような叫びが、高い天井に叩きつけられた。

「男児を産んでも、王后(おうこう)である姉の嫡子(ちゃくし)となる。ゆえに、姉を殺し、その座を奪ってやった。だが、あの男はッ……! いつまでも、私を見ようとはしなかった! あの男の瞳に映るのは、いつだってあの死んだ女の幻影ばかりだ!」

 太后の言葉は鋭い刃となって、熱を帯びた空気を切り裂く。

「私は道具ではないッ!!」

 絶叫と共に、彼女は盤上の石をことごとく()ぎ払った。バラバラと、白黒の石が床に無残に転がる。