闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

「この女は、あなたの母君をその手で殺めた、ただの人殺し。そして、あなたは……その人殺しが作り上げた、道具にすぎませぬ」

 目の前の男の顔から、色が抜け落ちた。手と足を懸命に動かして、母と呼ぶ女に抱きつくようにして、肩を掴む。

「は、母上……? こやつ、嘘をついているのですよね!? 母上は、火の海から幼い私を救ってくださった——」

 太后が袖を払い、王を突き飛ばした。王が無様に尻餅をつく。

「……まったく。誠に憎らしい。なぜ、白楊(はくよう)の小娘がそれを知っている。蟠龍(ばんりゅう)蠱毒(こどく)はまさに秘伝。王族しか知らぬのだぞ」

「……ま、誠に……私の母を……殺したのですか?」

 太后は、首をこきりとひねり、見下すように王に視線をやる。扇をもった手首が大きく回旋し、その口元で広がった。

「私の腹は、()の王子を産んだ時に傷つき、もう(はら)むことはできなかった。でも、王子は産まなくても問題はない」

 ゆらりゆらりと、扇が揺れる。その隙間から見える口元が弧を描き、紅い唇の端が釣り上がっていく。

「——奪えば良いのだ」

「なぜ、私を……」

「そなたは、腐っても崔家(さいけ)の血筋。王子の中で最も高貴な血を持つ者。そして——傀儡(くぐつ)にするに丁度良い愚純さだった」

 王の目から、だらだらと透明な液体が溢れていく。全身が小刻みに震え出して、手を置いた床と擦れて奇妙な音を奏でていた。

「そなたは、知に乏しく、程度の低い傀儡(くぐつ)にすぎぬ。(ぎょ)しやすい子供は、育てやすいことこの上ない。皮肉なことに、私の実子、()の王子とは比べものにもならぬ。あれは天賦(てんぷ)の才という類の者だったからな」

 あまりにも冷酷な声。王は信じられないものを見たかのように、ぐにゃりと力を失って床に沈んでいく。その実、王はあまりにも太后に忠実だった。母と崇め、間違った孝を積み、常にその女が示す道を「正」として歩んできたのだから。