◇◇◇ 朱飛 ◇◇◇
赫燕軍の猛攻はさらに激しさを増した。その勢いは、まるで玄済国を食い尽くすかのような貪欲さで、各地にさらなる絶望をもたらしていく。進軍の軌跡は、血と灰で描かれ、そこには敵の屍だけでなく、赫燕軍自身の血もまた、乾いた土に染み込んでいった。
進軍に、もう言葉は要らない。その瞳は、目前の城ではなく、その遥か先——王都・呂北だけを見据えている。疲弊しきった顔に湛えるのは、もはや忠誠心ではなく、誰もが、飢えた獣のような、強い光を宿している。その先頭で、紫紺の衣を纏った赫燕は、王のように堂々とただ前だけを見据えている。
数刻前。本陣に戻った斥候から、赫燕と朱飛が報告を受けていた。広げた地図を指し示していく。
「祈雨の儀の行列は?」
「ここからおよそ五十里、呂北の西郊の駅亭にて、道中の者どもが言っていたそうです。馬車が連なり、西苑に向かっていると。そして、西の市場に『青布・麻縄・太鼓台。今夕、西外水門道へ』と掲示あり。墨はまだ湿っていたため、今まさに動いているときかと」
斥候は、そこで言葉を切った。
「お頭、もう一つ。西外水門手前の葦原の縁で、板道を打つ槌音が途切れません」
「——いつからだ?」
「昨日から、ずっとです」
日照りが続いているといっても、あの霜牙の入り口、葦原の大地は常にぬかるんでいる。そこに板道を打つ、つまりは仕掛けがあるということだ。
赫燕は地図上で指先を滑らせて、西へ細く一本、線を引く。
「朱飛。祈雨の行列は、西苑、西外水門を通り、そのまま河伯の祠に向かうだろう。崔瑾に、さらに兵を割かせるぞ」
その声は、白み始めた空に溶けていった。
赫燕軍の猛攻はさらに激しさを増した。その勢いは、まるで玄済国を食い尽くすかのような貪欲さで、各地にさらなる絶望をもたらしていく。進軍の軌跡は、血と灰で描かれ、そこには敵の屍だけでなく、赫燕軍自身の血もまた、乾いた土に染み込んでいった。
進軍に、もう言葉は要らない。その瞳は、目前の城ではなく、その遥か先——王都・呂北だけを見据えている。疲弊しきった顔に湛えるのは、もはや忠誠心ではなく、誰もが、飢えた獣のような、強い光を宿している。その先頭で、紫紺の衣を纏った赫燕は、王のように堂々とただ前だけを見据えている。
数刻前。本陣に戻った斥候から、赫燕と朱飛が報告を受けていた。広げた地図を指し示していく。
「祈雨の儀の行列は?」
「ここからおよそ五十里、呂北の西郊の駅亭にて、道中の者どもが言っていたそうです。馬車が連なり、西苑に向かっていると。そして、西の市場に『青布・麻縄・太鼓台。今夕、西外水門道へ』と掲示あり。墨はまだ湿っていたため、今まさに動いているときかと」
斥候は、そこで言葉を切った。
「お頭、もう一つ。西外水門手前の葦原の縁で、板道を打つ槌音が途切れません」
「——いつからだ?」
「昨日から、ずっとです」
日照りが続いているといっても、あの霜牙の入り口、葦原の大地は常にぬかるんでいる。そこに板道を打つ、つまりは仕掛けがあるということだ。
赫燕は地図上で指先を滑らせて、西へ細く一本、線を引く。
「朱飛。祈雨の行列は、西苑、西外水門を通り、そのまま河伯の祠に向かうだろう。崔瑾に、さらに兵を割かせるぞ」
その声は、白み始めた空に溶けていった。

