闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 やがて、王は、ふう、と一息を吐いて座にもたれ直した。

「出兵の前に、西苑(さいえん)および西外(にしそと)水門の警護に兵二万を回せ」

 二万。その数字に、周囲に控えていた大臣たちから、小さくどよめきの声が上がる。大臣たちのざわめきの中、一人の老いた大臣が、静かに尋ねた。

祈雨(きう)の儀を、執り行われるのですか」

 彼の言葉に、王はゆっくりと頷く。

「そうだ。長き日照りで民心が(すさ)んでいる。天の助けを仰ぐ。明日より西苑(せいえん)鵠池(くげいけ)に宿り、潔斎(きよめ)西外(にしそと)水門で。母上と私、大臣どもの妻妾が参加する」

 王の言葉を聞いた崔瑾の、ぴくりと手が動いた。

「——崔瑾(さいきん)、そなたの白楊(はくよう)の華もな」

「ですが、妻は」

祈雨(きう)(いん)を強めねばならぬ。大都督の妻だけ外すわけにはいかぬ。愛する妻がいるのであれば、兵二万など(やす)かろう。のう、崔瑾(さいきん)

 王の声が響く。

 ——二万。

 喉元に、血の味が広がった。対・赫燕(かくえん)戦の兵力を、儀式に割くというか。だが、ここで「否」と答えれば、総大将の任は周礼の息がかかった、あの無能な男たちの手に渡る。そうなれば、国は確実に滅ぶ。呑むしかない。この毒の杯を。

 そして、何よりも玉蓮を守らねば。

「——精鋭を、送りまする」

 己の胸に宿る炎が、その色を変えていく。もはや、国を憂う清く青い炎ではない。どす黒い赤き炎が、その青を内側から侵し、二つは混じり合って、禍々しい深い紫へと変わっていく。