闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

「さて、そなたは、この未曽有(みぞう)の事態を招いた責任を、いったいどう取るつもりか」

 突き放すような問いかけに、崔瑾(さいきん)はゆっくりと顔を上げ、王に視線を向ける。

「大王様、どうか私に最後の機会を。この崔瑾(さいきん)を、どうか総大将に任じてください。私の全霊を賭けて、必ずや大陸最強の騎馬隊を擁する赫燕(かくえん)軍を討ち滅ぼし、この玄済(げんさい)の地と、尊き民の命を、最後まで守り抜いてみせましょう」

 自らの命運をも賭けた、有無を言わせぬ断言。だが、この決意に満ちた言葉は、逆に王の表情をさらに硬くさせる。王は、崔瑾(さいきん)の視線の先で、苦々しさに耐えるように顔を歪めた。

「……結局は、そなたの力に頼らざるを得ぬとは。この窮地(きゅうち)、全てがそなたの盤の上か。王を手玉にとるとは、そなたは、とんだ臣下だ!」

 王の怒りと屈辱に満ちた声が玉座の間に響き渡る。崔瑾は、その痛烈な皮肉を、静かに、ただ頭を下げることで受け止めた。

 この戦の行方が、玄済(げんさい)国の未来を左右する。崔瑾(さいきん)の胸中には、すでに戦の青写真が描かれていた。この盤を制し、必ずや玄済(げんさい)国に勝利をもたらす。その固い決意が、静かに燃え盛っている。

「そなたの首を()ねても、獣の暴威は止まらぬ。この焦土(しょうど)が証だ。白楊は、あの男ひとりで立っている。母上は『赫燕(かくえん)さえ討てば終わる』と仰せだ。だが、私はあれが欲しい——生けて連れてこい。今度こそ、我が物とする」

 崔瑾(さいきん)はその言葉に一瞬、眉を(ひそ)めそうになったが、すぐに表情を戻す。

「大王、赫燕(かくえん)は敵・総大将。死闘は避けられませぬ」

 崔瑾(さいきん)は冷静に、しかし毅然(きぜん)と諫言《かんげん》を試みたが、目の前の王の瞳は、欲望に濡れているように揺らめいている。

白楊(はくよう)の美しき獣を我が手中におさめてやる。屍でも良い! よいな、崔瑾(さいきん)赫燕(かくえん)に勝てねば、お前の陣営の者は皆、斬首だ」

「は、必ず勝利を……」

 崔瑾(さいきん)は、静かに頭を垂れた。その声は、朝議(ちょうぎ)の場の重苦しい空気に吸い込まれていく。