闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

◇◇◇

 怒涛の勢いで攻め上がる白楊(はくよう)軍の猛威を前に、玄済(げんさい)国の朝議(ちょうぎ)の場は、鉛のように重苦しい沈黙に包まれていた。中央に置かれた軍事用の大地図には、血を思わせるかのように、次々と白楊(はくよう)国の支配下に落ちていく領土が、無慈悲なまでに赤く塗りつぶされていく。その赤い(あと)は、日を追うごとに、玄済(げんさい)国の心臓部へと迫りつつある。

 長く、耐え難い沈黙は、誰もが息を潜める中で続く。そして、やがて、その張り詰めた静寂を切り裂くように、玉座に座す王の、底冷えのする声が響き渡る。

「——崔瑾(さいきん)大都督(だいととく)の任にありながら、白楊(はくよう)の暴挙を止められぬというこの大失態。その責は、お前の首一つで事足りるものではないと、わかっておるのか」

 崔瑾(さいきん)は顔を伏せたまま、口を開く。

「申し訳ございませぬ……」

 その言葉以外に、吐き出すべき言葉がなかった。本来、経験豊富で有能な将が就くべき前線指揮官の地位に、王と周礼により、未熟な者が据えられていたのだ。しかし、崔瑾(さいきん)は、大都督という最高武官の地位にありながら、その圧力を覆すことができなかった。それが、この惨憺(さんたん)たる敗戦を招いた直接的な要因だ。

 敗戦の責は、確かに己にある。己の無力さが、経験の浅い将を無謀な前線に送り込み、多くの玄済(げんさい)国の兵士たちが、赫燕(かくえん)軍の苛烈な攻撃の前に、無惨に散っていくという結果を招いたのだから。

「お前の派閥の将であらずとも、その責はお前にある。お前が指揮をとれずとも、責はお前にあるのだ」

「は、申し訳ございませぬ」

 崔瑾(さいきん)の脳裏には、戦場で命を落とした数万の兵士たちの顔が、走馬灯のように次々と浮かび上がっては消えていく。そして絶望に満ちた叫びが、その耳にはっきりと、今まさにこの場に響いているかのように聞こえる。

「若年であろうと、玄済(げんさい)国・大都督の地位にあるお前は、全ての責を負う存在。民と土地が奪われれば、我らに入る金が減る。王たる私の安寧を脅かしているのだぞ」

 王の声は、もはや低い唸りのように響く。玉座に深く沈み込んだ体躯は、それでも有無を言わせぬ威圧感を放っている。その瞳は、国の存亡よりも、自身の権力と享楽(きょうらく)が脅かされることへの怒りに燃えている。

 崔瑾(さいきん)は、その視線を受け止めながら、顔の前で合わせた拳に力を入れた。爪が手のひらに食い込み、痛みが走る。