闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 その脂ぎった指が、玉蓮の肌に触れる寸前。雲が裂け、月光が刃のように寝室を切り取った。玉蓮の口元に、ほんの微かな、しかし氷のように冷たい笑みが浮かぶ。かつて、あの男が獲物を前に浮かべていた、あの不遜な笑みと同じように。

 周礼(しゅうれい)の、あの粘つくような笑みが、ほんの一瞬、引き攣る。彼は伸びかけた手を止め、気まずそうに視線を逸らして杯を(あお)った。玉蓮のその表情を、絶望のあまり心が壊れたゆえの狂笑だと勘違いしたのだろう。

「そ、そういえば、貴女様の姉君も、白楊(はくよう)から来られた美しい姫でしたな」

 周礼は、玉蓮の前に座り込むと、卓に置かれた酒瓶を手に取った。高々と掲げられた杯の中には、とろりとした琥珀色の液体。その揺らめきが、彼の歪んだ高揚を映し出していた。

「いやはや、貴女様の姉君には、困ったものでした。あまりにも賢く、あまりにも気高すぎた……見るべきではないものを、見てしまわれたのです」

 周礼は、玉蓮に、なみなみと注がれた杯を差し出す。

「あの気位の高い姫君は、私の小さな商売を知ってしまわれた。そして、それをあろうことか王に伝えようとしたのです……実に、愚かなことです。軍需物資の横流しなど小事にもかかわらず。この国では、真実を知りすぎた者は、生きながらえることはできぬのに」

 卓の上に置かれた琥珀の液体。

「さあ、貴女様は賢い姫君だ。この国の(ことわり)をもうご理解されているはず。この杯をお受けになるでしょう? 姉君のように、愚かな選択はなされますまいな」

 玉蓮の瞳を覗き込むように顔を近づける。酒と脂の臭いが鼻をつく。

「王のあの残虐な性分はご存知でしょう。あれを、ほんの少し煽ってけしかけてやるだけで、女一人、始末するのは赤子の手をひねるも同然。四肢を切り落とし、皮を剝ぐまでいかれるとは……まあ、その裏には強大な力を持つ太后様がいらっしゃいますからな」