玉蓮の思考が、一瞬凍り付いた。周礼は、その表情を恐怖だと受け取ったのか、さらに二杯目を口にして、舌を滑らかにする。
「太后様は、元は玄済国の北にあった国の王后だったのです。かの国は、対の紫水晶が国宝とされる、美しい国でした。その国の王は、飢饉に見舞われた我が国と大孤を救った心優しき王。ですが、翌年は自国が飢饉に見舞われた。そこで助けを求められたのは、我が国と大孤……」
くふ、と喉から不快な音を漏らす。
「無論、我々は、大いに侵略しました。しかし、その手引きをしたのは誰あろう当時の王后。今の太后様、ご自身ですよ。気高き騎馬民族の王は、自らの后《きさき》に裏切られ、その首を落とされた。傑作ですな」
周礼は、その杯を高々と掲げた。まるで、死んだ王を嘲笑するかのように。
「そして、若君……母に似て見目の良い、美しい王子であったとか。しかし、太后様にとっては邪魔な駒。燃やしてしまわれたのです。城ごと、国ごと、過去の全てを灰にするために」
男はそこで一度言葉を切り、玉蓮の顔を覗き込むように下卑た笑みを浮かべた。三杯目の酒を、玉蓮の足元にまるで供物でも捧げるかのように、無作法にこぼしてみせる。
「火の勢いが余りに凄まじく。その若君の亡骸も、国宝の紫水晶も、ついに見つからなかった……哀れなことよ、実の母に焼かれるとは」
その下劣な笑い声は、玉蓮の耳にはもはや届いていなかった。ぐらり、と。部屋が歪む。耳の奥で、何かが千切れる音がした。
——赫燕の心の闇。
——光を失った、昏い瞳。
——対の紫水晶。
——燃え落ちる城の記憶。
——『父上』という叫び。
全ての点が、一本の灼熱の鉄線となって脳を貫いた。玉蓮は、懐にしまわれたその石に触れるかのように胸を押さえた。指先が微かに震える。胸があまりにも熱い。怒りとは違う昏い炎が燃え移っていく。
(あなたは——)
「安心なされよ。崔瑾と違い、私は貴女様を、生涯大切に愛でて差し上げますゆえ」
何も気づいていない周礼が、勝利を確信した手つきで、玉蓮の肩へと手を伸ばした。
「太后様は、元は玄済国の北にあった国の王后だったのです。かの国は、対の紫水晶が国宝とされる、美しい国でした。その国の王は、飢饉に見舞われた我が国と大孤を救った心優しき王。ですが、翌年は自国が飢饉に見舞われた。そこで助けを求められたのは、我が国と大孤……」
くふ、と喉から不快な音を漏らす。
「無論、我々は、大いに侵略しました。しかし、その手引きをしたのは誰あろう当時の王后。今の太后様、ご自身ですよ。気高き騎馬民族の王は、自らの后《きさき》に裏切られ、その首を落とされた。傑作ですな」
周礼は、その杯を高々と掲げた。まるで、死んだ王を嘲笑するかのように。
「そして、若君……母に似て見目の良い、美しい王子であったとか。しかし、太后様にとっては邪魔な駒。燃やしてしまわれたのです。城ごと、国ごと、過去の全てを灰にするために」
男はそこで一度言葉を切り、玉蓮の顔を覗き込むように下卑た笑みを浮かべた。三杯目の酒を、玉蓮の足元にまるで供物でも捧げるかのように、無作法にこぼしてみせる。
「火の勢いが余りに凄まじく。その若君の亡骸も、国宝の紫水晶も、ついに見つからなかった……哀れなことよ、実の母に焼かれるとは」
その下劣な笑い声は、玉蓮の耳にはもはや届いていなかった。ぐらり、と。部屋が歪む。耳の奥で、何かが千切れる音がした。
——赫燕の心の闇。
——光を失った、昏い瞳。
——対の紫水晶。
——燃え落ちる城の記憶。
——『父上』という叫び。
全ての点が、一本の灼熱の鉄線となって脳を貫いた。玉蓮は、懐にしまわれたその石に触れるかのように胸を押さえた。指先が微かに震える。胸があまりにも熱い。怒りとは違う昏い炎が燃え移っていく。
(あなたは——)
「安心なされよ。崔瑾と違い、私は貴女様を、生涯大切に愛でて差し上げますゆえ」
何も気づいていない周礼が、勝利を確信した手つきで、玉蓮の肩へと手を伸ばした。

