闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 二人の間に、新たな影が落ちた。ゆっくりと、闇の中から現れたかのように、赫燕(かくえん)がそこにいた。彼は倒れたまま(うめ)いている男の頭を、つま先で無造作に転がす。

「……何だ、このザマは」

 彼の視線は朱飛(しゅひ)を通り越し、震える玉蓮に突き刺さった。まるで心の臓を直接見透かされているような感覚に、玉蓮の呼吸が止まる。彼が現れただけで、空気そのものが密度を増し、肌を圧迫してくる。

「俺の名がなければ、男に犯され殺されてたな」

「わたくしは、この国の公主。わたくしに手を出すなど、許されません」

「はっ、なんだかんだ後宮育ちの甘ったれの女だな」

「何を!」

「弱いんだよ、お前は。威勢よく俺の軍に来たと思えば、男数人に囲まれて泣き喚くのが関の山か」

 (あざけ)るような響きに、焦げつくような熱が玉蓮の胸を走る。

「復讐だなんだと劉義(りゅうぎ)のじじいのとこで息巻いてた威勢はどこへ行った、姫さん。お前の思いはその程度か」

 それを聞いた瞬間、膝の震えが、ぴたりと止まった。恐怖で凍りついていた血が、一瞬にして熱くなる。

 玉蓮は、顔を上げた。潤んでいた瞳は乾き、目の前の男を射殺さんばかりの業火を宿して、強く睨み返した。

 その刹那(せつな)

 赫燕の動きが不意に止まった。愉悦(ゆえつ)に歪んでいたはずの唇はその形を失い、深淵のような瞳から、玉蓮を(なぶ)る光が消え失せた。

 その代わりに宿ったのは、まるで底なしの闇を覗き込むような、(くら)い光。

 目の前の男の瞳は、燃え盛る炎のような何かを映し、(わず)かに、そして鮮明に揺れている。

 まるで、玉蓮を通して、ここではない遠い過去の幻影を見ているかのような——。しかし、その揺らぎは、瞬き一つをした後に、すぐに元の色に戻る。

「ほう……やっと、獰猛(どうもう)な山猫みたいな目になったな」

 赫燕の口元に、再び笑みが浮かんだ。彼はゆったりと一歩、玉蓮に近づく。

 その距離が縮まるごとに、玉蓮の心の臓は燃え盛るように激しく高鳴る。しかし、彼女は一歩も引かず、その場に両足を留めた。