闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 赫燕(かくえん)の隣に立つ朱飛(しゅひ)は、小さくため息をついた。その視線は、まだじゃれ合っている三人組に向けられている。

「本当に、緊張感がない」

朱飛の呟きに、赫燕(かくえん)は肩をすくめる。

「いいだろ、こいつらはこのまんまの阿呆(あほう)で」

 朱飛(しゅひ)の唇の端が、ほんのわずかに緩む。しかし、その笑みはすぐに消え、彼の視線は北東の山脈へと向けられる。

「……もう少し、ですね」

 朱飛(しゅひ)の言葉が、まるで合図かのように、その場にいた側近たちの間に一気に静寂をもたらした。彼らの顔が鋭くなり、無言のまま、同じように北東へ視線を向ける。

「……ああ」

 赫燕(かくえん)も同じように、ゆっくりと顔をそちらに向けた。

 幾重(いくえ)にも連なる雄大な峰々(みねみね)、雲の切れ間からは、雪が(いただき)を白く染めている姿が薄い煙ごしに映る。さらに視線を上へと辿れば、どこまでも続く青い空が広がり、そこに一羽の鷹が悠然と舞っていた。翼を大きく広げ、風を捉えるその姿は、まるでこの世界のすべてを見下ろすかのようだ。

「お頭」

 子睿(しえい)の声が、耳に届く。

「この結末、どう描いているかお聞きしても?」

「聞きてえか、子睿(しえい)

 赫燕(かくえん)は、鷹から視線を外し、子睿(しえい)の鋭い眼差しを受け止めて、ニヤリと笑う。