闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

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玉蓮殿

もし貴女がこれを読んでいるのなら、私は、貴女を守り通すという、夫としての約束を果たせなかったのでしょう。申し訳ありません。

ですが、盤は、まだ終わってはおりません。

赫燕大将軍の死は、終わりではなく、白楊(はくよう)本軍を呂北(ろほく)に導くための、一手です。彼は、自らの死と、玄済(げんさい)の混乱そのものを狼煙《のろし》とする策を選んだ。

白楊(はくよう)国の将は、赫燕だけではない。赫燕がその影にわざと隠していた劉家(りゅうけ)が、彼の死を合図に必ず動くはずです。

この箱に、我らが集めた全てを入れています。戦場で赫燕大将軍から託された『宝』と共に。そこにはきっと、私ではわからない真実があるはずです。

どうか、貴女の信じる「道」のために。生きてください。貴女が、いつか心から笑える日が来ることを、信じています

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 涙が、ぽたりと落ちた。赫燕が遺した、紫水晶の刻印。崔瑾が遺した、この真実。二人の英雄の、あまりにも重く、あまりにも切実な遺志が、今、確かに、玉蓮の両の手にある。

 二人が命を賭して遺した武器。玉蓮は、全ての証拠を、龍の香炉(こうろ)の欠片と共に寝所の箱の奥深くへとしまい込む。そして、涙を拭い、赫燕の匕首を鞘から抜き放った。冷たい刃が、月光を反射して鋭く輝く。

(……この「道」の先へ)

 玉蓮は立ち上がった。屋敷の門の向こうから、騒がしい足音と、周礼の傲慢な笑い声が聞こえ始めていた。

 「夜」が、来たのだ。