闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 玉蓮は、外套(がいとう)も羽織らず、一人、庭へと降り立った。塀の外には、兵士たちの影が微かに動いている。だが、彼らの意識は「屋敷からの脱走」にのみ向けられており、庭の中央にある木の下で、大都督の正室が泥に塗れている姿などは想像もしないだろう。

 桃の木の、根元。

 玉蓮は、雨上がりの湿った冷たい土に、躊躇(ちゅうちょ)なく手を突っ込んだ。爪の間に土が入り込み、感覚がなくなるまで掘り進める。

 どれくらいそうしていただろうか。根の間に隠れるようにして、敷石の一つが、微かに動く感触があった。爪が割れるのも構わず、石の隙間に指をねじ込み、渾身の力で持ち上げる。敷石の下には、油紙で幾重にも厳重に包まれた、一つの桐の箱が埋められていた。


(旦那様……あなたは、この結末を)


 息を殺し、箱を抱えて書斎に戻る。翠花(スイファ)が慌てて窓を閉め、内側から鍵をかけた。泥だらけの手で、震える指で、油紙を解く。桐の箱を開けた瞬間、玉蓮は、息を呑んだ。

 そこにあったのは、膨大な量の書簡。

 周礼が軍需物資を横流ししていた帳簿。太后が朝廷の要職を私物化し、国庫を横領していた証拠。そして、崔瑾が独自に調査させていたであろう、数々の密告書。

 偽造された()の存在を示す証拠も。さらには、前王后が亡くなられた当時の太医局の記録と、そして(むくろ)が運ばれた先を示す紙片まで。

 全てが、崔瑾が積み上げてきた「正義」を雄弁に物語っていた。

 だが、玉蓮の目を釘付けにしたのは、その一番上に置かれていた一通の奇妙な書状だった。

「これは……」

 崔瑾の筆跡ではない。荒々しくも流麗(りゅうれい)筆致(ひっち)


【要を壊せ。これは、その証拠だ】


 玉蓮の手が震えた。その書状の下には、『元后崔氏・崩御記録』。そして——

『……王后宮(おうこうきゅう)、寝所、焼け跡より『龍の香炉(こうろ)』の破片、発見さる。火元とは異なると見られる。ただし、香炉の形状、紋様の詳細は焼損により判別不能……』

 芳梅(ほうばい)の証言と、あの龍の香炉(こうろ)の欠片。玉蓮がたどり着いた太后の罪。その、決定的な裏付けとなる証拠が、今、ここにある。

 赫燕(かくえん)が、なぜあの進軍路を選んだのか。太后と赫燕の繋がりとは——

 思考が繋がり、衝撃で息ができなくなる。(あえ)ぐように空気を吸い込んだ玉蓮の視界に、箱の底に挟まれた、崔瑾自身の筆跡で書かれた短い文が入った。