『——生きろ』
二人の男が、最後に託した、たった一つの願い。その抗いようのない重さに、膝の力が抜ける。崩れ落ちそうになる体を、崔瑾の腕がしっかりと支え、抱き寄せた。
「玉蓮殿」
耳元で、祈りのような声がする。
「私の想いは、あの桃の木の下で告げた通りです……それだけが、私の真実です」
「……桃の、木……」
玉蓮は崔瑾の顔を見上げた。温かい体温が、皮膚から、心の奥底まで染み渡っていく。きっと、もう二度と触れられない。もう二度と戻らない。玉蓮は全身の震えを止めることができなかった。
再び兵士たちが、恐る恐る距離を詰めてくる。崔瑾は立ち上がると、一切の抵抗を見せることなく、まるで運命を受け入れるかのように、自ら両手を差し出した。そして、一度だけ玉蓮の顔を見ると、次の瞬間には顔を上げ、凛とした表情で兵士たちに向き直った。
「私は、従います。他の者には手出し無用」
その口から発せられたのは、抑揚のない、しかし王のごとき力強い一言。兵士たちの間を通り抜け、玉蓮の心に深く響く。
「行きましょう」
兵士たちは、崔瑾の威厳に圧倒されながらも、その言葉に従うようにして彼を連行していく。降りしきる雨が、彼が残していった温もりを容赦なく洗い流していく。
遠ざかる崔瑾の背中。それは、処断へ向かう罪人のものではなく、真の英雄の背中だった。

