闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

◇◇◇ 周礼(しゅうれい) ◇◇◇

 周礼は、空の玉座を横目で一瞥(いちべつ)すると、潤朱(うるみしゅ)の衣をはためかせて(きびす)を返した。謁見の間を静かに離れ、回廊をゆったりと進む。周礼の耳朶(じだ)に焼き付いている、大臣どもの怯えと崔瑾(さいきん)咆哮(ほうこう)。それは、周礼の予想を遥かに超えるものだった。

「……まさか、あれほどとは。あのお方に報告せねばなるまい」

 独りごちながら、周礼は左手に持った扇で口元を隠し、唇の端を釣り上げる。

(若造めが。私に楯突くからこうなるのだ)

 崔瑾(さいきん)の若さと、それ故の未熟さ。周礼は、自身の描く筋書き通りに物事が運ぶことに、笑いを止めることができなかった。

 やがて、回廊の先で微かに動いた影に身をよせる。

「……どうした」

 影の中に控えていた配下が、周礼に向けて小さく頭を下げた。

掖庭(えきてい)より、西苑(せいえん)鵠池(くげいけ)の客殿を払い清めよとのことです。今宵より宿(やど)り支度、伽羅(きゃら)を焚け、と」

 感情の気配を欠いた平板な響きが耳に届く。周礼は、眉間に皺を寄せつつも「承知した」と一言返した。配下の報告は続く。

「周礼様、もう一つ。王より……『華を御前へ』と」

「華を……?」

 周礼は、その報告を聞き、扇で隠した口元をさらに歪め、視線を頭上に投げる。

「ふん、大王も諦めることを知らぬ……あの方は?」

「進めよ、と」

 配下の返答に、周礼は満足げに頷いた。周礼は、背後で糸を引く人間の顔を思い浮かべ、扇で隠した口元で、さらに深く、口角を吊り上げた。