闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

◇◇◇ 崔瑾(さいきん) ◇◇◇

 赫燕(かくえん)の猛攻に対し、玄済(げんさい)の重臣たちは狼狽し、連日、崔瑾(さいきん)に早急な対策を求めていた。彼らは日ごとに憔悴し、崔瑾(さいきん)の屋敷には焦燥と不安が渦巻いている。

赫燕(かくえん)め! 大規模な軍勢を率いてはいるが、他に(おも)だった将軍は、白楊(はくよう)にはおらぬ!」

「焦るでない。白楊など、赫燕(かくえん)一人が要の国」

「そうだ、赫燕(かくえん)を討てば終わる。すぐに黙るであろう」

「大都督! どうされるのです!」

 その中心で、崔瑾(さいきん)は泰然自若としている。

「私より、王に進言いたしましょう」

 崔瑾(さいきん)は重臣たちの嘆願を静かに聞き入れ、毅然とした態度を崩さずに彼らを宥めた。


 しかし、王宮の一室に足を踏み入れた瞬間、崔瑾(さいきん)は、重い鎧をもう一枚着せられたかのような、息苦しさを感じた。ここで交わされる言葉の全てが、戦場の現実から乖離(かいり)した、空虚な響きしか持たないことを、知っていたからだ。

 王宮の一室では、重臣たちを前に周礼(しゅうれい)が耳触りの良い言葉を並べ立てている。

「大王様は、この度の、赫燕(かくえん)の猛攻にも、決して臆してはおられぬ。むしろ、この機に、白楊(はくよう)軍を根絶やしにする好機と捉えておられるわ」

 周礼の声は、まるで、中身の空っぽな壺を叩いたかのように、やけに、甲高く、そして空虚に響き渡る。大臣たちは周礼の言葉に頷き、安堵の表情を浮かべている。

 しかし、崔瑾(さいきん)は違う。そのあまりに楽観的で、無責任な言葉に、崔瑾(さいきん)が顔を(ひそ)める。脳裏には、戦場の悲惨な光景が鮮明に焼き付いている。無数の兵士たちが血を流し、故郷を離れて戦い続けているのだ。