闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

◇◇◇ 玉蓮 ◇◇◇

 最前線からの報は、まるで嵐のように、やがて玄済(げんさい)国の都・呂北(ろほく)へと押し寄せた。それは、都の堅固な城壁さえも揺るがすかの如く、人々の心に暗い影を落としていく。大都督府の奥深くにいても、都の空気が一変したのがわかるほどに。

 あの酒宴から、数ヶ月——突如起こった戦の炎は、いよいよ激しさを増し、国がまさに焼かれ始めている。かつては活気に満ちていた市場の喧騒(けんそう)は、今や鳴りを潜め、商人の威勢の良い声は、熱に浮かされたかのような悲痛な叫びへと変わる。食糧の不足、物資の高騰、そして何よりも、戦場から届く兵士たちの悲鳴が、人々の日常を少しずつ侵食していく。

 そんな重苦しい空気の中、崔瑾(さいきん)は玉蓮の隣に、音もなく座った。冬の終わりを告げるような柔らかな日差しが、書斎の窓から差し込み、部屋の一部を明るく照らしている。

 崔瑾は、静かに、そして淡々と口を開いた。

「玉蓮殿。赫燕(かくえん)軍が、玄済(げんさい)の将軍を討ち、投降兵数万を虐殺し、髑髏(どくろ)台を築いたそうです」

「……は」

 息が漏れた。

(——髑髏(どくろ)、台?)

 胸の奥底から込み上げてくる何かを抑えるために、玉蓮は唇をきつく噛み締める。

 崔瑾(さいきん)は、眉根を深く寄せ、手に持っていた書簡を、ことり、と音を立てて机の上に置く。その細い音が、張り詰めた書斎の静寂の中で、不気味なほど響き渡る。