復讐姫と二人の英雄 —殺戮将軍と天才軍師の執着。その天命の盤で美しく狂い咲く—

◇◇◇

 翌日、王に呼ばれて参内したものの、謁見の間には太后(たいこう)がいるようで、扉は閉ざされたままだった。厚い扉の隙間からは、あの甘く重い、伽羅(きゃら)の香りが漏れ出ている。

 周礼と共に、廊下で待つこと一刻。重苦しい沈黙の中、崔瑾(さいきん)は背筋を伸ばして控えていた。不意に、ねっとりと鼓膜に絡みつくような含み笑いが届く。

「……ふふ、崔瑾殿」

 声の元へ視線を向ければ、いつもの甘ったるい笑みを浮かべ、周礼が袖で口元を隠しながらもその瞳をいやらしく細めていた。崔瑾は一度瞳を閉じ、感情を殺してから再び前を向いた。

「なんでしょう、周礼殿」

白楊(はくよう)の姫君は、いつまであなたの屋敷に置いておかれるおつもりですかな?」

 崔瑾のこめかみがピクリと動く。

「……どのような意味ですか」

祭祀(さいし)でお気づきのことかと思いますが、王は、姫君を後宮に迎え入れることを、いまだ諦めてはおられぬぞ。玉蓮殿のような稀代の美女を、一介の臣下の妻として囲っておくのは、いささか惜しいとのお考えのようだ」

 その挑発的な言葉に、崔瑾の背筋を、沸騰した血が逆流するような不快な熱が駆け上がった。抑え込んでいたはずの黒い感情が、胸の奥で鎌首をもたげる。

周礼(しゅうれい)殿。玉蓮殿は崔家の正室。いかなる理由があろうとも、離縁するつもりはない」

 崔瑾は揺るがぬ意思を込めて、刃のように鋭い声で告げた。だが、周礼は怯むどころか、満足げに口角を吊り上げる。まるで、その反応こそを待っていたかのように。

「ほう……しかし、王が望めば、王のもの。それがこの国の掟、臣下の務めではありませんか。まさか、大都督ともあろうお方が、王命に(そむ)く……つまり、大不敬を働くと?」

 周礼の言葉が、崔瑾の心の最も柔らかく、そして脆い部分を(えぐ)る。崔瑾は自身の血の気がすっと引き、代わりに、腹の底から氷のように冷たい殺意がせり上がってくるのを感じた。それは、忠誠をも凌駕(りょうが)する、絶対的な拒絶。