闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 彼の指の温かさが、玉蓮の指先にじんわりと染み渡るのに、熱が引く。そこには確かに温もりがあるのに、心の奥が追いつかない。

「手が冷たくなっているではありませんか。庭園に、長くいすぎたのですかね」

 崔瑾(さいきん)の声色に、玉蓮は顔を伏せ、首を横に振る。

「わたくしは、大丈夫です。これくらい、なんということも」

「大丈夫なわけがないでしょう」

 微笑んだ音が頭上から耳に届く。顔を上げない玉蓮の頭に、唇が落とされる。

赫燕(かくえん)殿、妻は風邪を引きやすいもので、そろそろお(いとま)いたします」

 崔瑾(さいきん)はきっぱりと言い放ち、玉蓮の肩をそっと抱き寄せる。引き寄せられた反動で、玉蓮の外套(がいとう)が白菊に触れたのか、二枚の花弁がはらりと舞い、玉蓮と赫燕(かくえん)の間に落ちた。

 その花びらの儚さに見入っている間にも、崔瑾の腕は玉蓮をさらに深く抱き寄せ、玉蓮の髪をそっと撫でた。そして、一切の躊躇なく、玉蓮を連れて歩き出す。

「——崔瑾(さいきん)殿」

 (きびす)を返した後ろから、赫燕(かくえん)の、芯の通った声が届いた。