闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

「元気か?」

 今度は赫燕(かくえん)が、玉蓮の顔を真っ直ぐに見つめて尋ねた。

「……はい」

 玉蓮は、少し間を置いて、でもその瞳から視線を逸らすことなく答える。

「攻めあぐねていますが……生きて、います」

 生きろ、その言葉を胸に。伝えられない思いを込めて、衣の上から紫水晶に触れるように、己の胸元に手を置いてそのまま握りしめた。揺れることなどなかった、赫燕の瞳が微かに揺れている。玉蓮ただ一人を映しながら。

「俺は……お前を」

 しかし、その言葉は途中で途切れ、唇が固く、引き結ばれる。ひとつ息を整えてから、ようやく唇が動いた。

「進めばいい。思うままに」

 心を震わす、その声の元を見つめる。手を伸ばせば、その胸に触れられる。伽羅(きゃら)の香りがする、紫水晶が揺れるその胸に。この胸を焦がすような衝動だけは、どうしても消せない。消えてはくれないのだ。別の道を生きると、あの日、決意したはずなのに。

 伸ばした玉蓮の手に、赫燕の手が触れぬまま、重ねられる。空気を震わせるように、熱が空気の壁を通して伝わってくる。触れることなく、ただなぞるように大きな手が玉蓮の肌に沿って動いていく。髪を辿り、頬、首筋へ。

少しでも動いてしまえば、触れてしまうその温もりに、玉蓮は目を閉じた。何の涙かわからない雫が、玉蓮の目尻から溢れていく。この涙も、揺れ動く鼓動も、乱れる呼吸さえ、許されぬはずなのに。月の光が遮られて、(まぶた)の先が暗くなる。



「——奥様!」