闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

「酔われたのか、夫人」

「あ、いえ……あの、少しだけ」

 玉蓮は、赫燕(かくえん)の視線から逃れるように目を伏せ、言葉を選びながら答える。しかし、その声は微かに震えていた。

「お前は、すぐ酔うからな」

 ふ、と不敵な笑みを浮かべるその男の顔に、視線が奪われる。この男はいつだってそうだ。目の前の人間の瞳を自分に惹きつける。玉蓮は、無意識のうちに胸に手を置いていた。

劉義(りゅうぎ)とは話せたか」

「いえ、先生はずっと捕まっていらっしゃって、まだ」

「そうか。あいつは、いつも交渉ばかりだな」

「あの、皆……元気ですか?」

「相変わらずだ。阿呆なことばかりやってる。流石にこの場に呼ばれているのは、軍の者では、大将軍だけだ」

 あまりにも変わらない、赫燕(かくえん)の低い声と、どこかぶっきらぼうな口調。それが、なぜだろう。崔瑾(さいきん)の、どんな優しい言葉よりも、心の奥を甘くかき乱す。笑う赫燕(かくえん)を見て、玉蓮は泣き出しそうになるのを必死で笑みに変えた。

(じん)(せつ)牙門(がもん)の阿呆三人は、どうにかついてこようとしてたが、今は大孤(だいこ)と戦中だ。子睿(しえい)(しび)れ薬を盛って止めてたぞ」

「し、痺れ薬……ふふ」

 赫燕(かくえん)軍の面々が、日々の訓練や任務の中で繰り広げる、たわいもない冗談や競い合いの光景が目に浮かび、笑みが深まる。