闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

◇◇◇ 崔瑾(さいきん) ◇◇◇

 赫燕(かくえん)討伐の報は、瞬く間に玄済(げんさい)国中を駆け巡った。長きにわたる恐怖からの解放に、民衆は狂喜乱舞し、都は未だかつてない歓喜に沸き返った。昼夜を問わず、祝杯をあげる声、勝利を讃える歌声が響き渡る。恐怖で凍りついていた人々の笑顔が戻り、特に子供たちの高らかな笑い声は、平和がようやく訪れたことを雄弁に物語っていた。

 武勇と知略をもって赫燕を討ち果たした崔瑾(さいきん)の名は、一躍、国の守護神として轟き渡った。宮廷の大臣たちは競ってその偉業を記録し、「これぞ天命」と賛辞を惜しまなかった。

 だが、季節は巡る。熱狂の波も永遠には続かない。大通りから喧騒が遠ざかり、都が日常を取り戻し始めた頃。呂北(ろほく)にある崔瑾の広大な屋敷の庭だけは、季節から取り残されたような静寂に包まれていた。

 あの雨の日から季節は巡り、初夏の陽光の下、庭の一角にある桃の木は濃い緑の葉を茂らせ、そこに薄紅色の幼い実をつけ始めていた。力強い緑が、微風に乗って揺れている。

 その桃の木の下、(しつら)えられた簡素な卓を囲み、小さな宴が開かれていた。しかし、そこに以前のような、気兼ねのない朗らかな笑い声や、高揚した語らいはない。場を支配しているのは、首を絞められるような、張り詰めた沈黙だけ。

 パチリ——。

 硬質な音が、静まり返った庭に鋭く響く。黒と白の碁石が、盤上に打ち付けられる音だけが、二人の会話だった。盤を挟んで向き合うのは、玉蓮。その周りを、馬斗琉(ばとる)や阿扇といった側近たちが、石像のように控えている。英雄を讃える外の華やかさとは裏腹に、この庭には、勝利の後に訪れた、言葉にできない重い影が落ちていた。