闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。



 見慣れた、でも、どこか懐かしい白楊(はくよう)国王宮の庭園の中を歩く。柔らかな土の感触が足の裏に心地よく、古木の枝が風に揺れる音、コオロギのさえずりが耳に届く。すべてが夢のように朧げで、現実と幻の境界が曖昧になっていく。

 満月の光が降り注いで、木々や花々を幻想的に照らしている。特に、庭園の奥に広がる白菊は、その白い花弁が月光を反射して、まるで雪が積もったかのように輝いている。

「奥様、白楊国は冷えますね。外套(がいとう)をお持ちしますので、しばしお待ちください」

 少しだけ冷えた指先をそっと重ね合わせながら、玉蓮は静かに頷いた。

「ええ、お願い」

 玉蓮の肩を何度か手で撫でてから、翠花(スイファ)が来た道を戻っていく。その背中を見送ると、玉蓮は再び、庭園の奥深くへと足を進めた。


 しばらく歩くと、白菊の鉢が置かれた場所に出た。満開のもの、蕾のもの、一つ一つの花が、それぞれに異なる表情を湛えながら咲き乱れている。

 玉蓮は、その中のひときわ大きく、純白に輝く白菊に目を留めた。それは、まるでこの世の(けが)れを一切寄せ付けないかのような、神聖な美しさを放っている。

 吸い寄せられるように手を添え、その清らかな香りを深く吸い込もうと顔を近づけた、その時——。



「——玉蓮」



 低い声が、背後から心の臓を揺さぶった。有無を言わさぬ力強い声が。