闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 そして、もう一人。広間の上座近く。猛者たちに囲まれ、まるで獣の王のように、不遜(ふそん)な態度で酒を飲む男がいた。その紫紺(しこん)の衣を纏った美しい男は、周囲の華やかな装飾の中で、ひときわ異質な闇を放っている。

 あの男が、己に注がれる視線に気付かぬはずがない。己に向けられる意識を捉えぬはずがない。だが、多くの瞳が自身に注がれていても、なお、その男はそれが至極当然かのように唇の端だけで薄く笑っている。

 赫燕(かくえん)は、白楊(はくよう)国の大将軍に任ぜられていた。その瞳は以前と何も変わらない。全てを見透かし、全てを(あざ)笑うかのような、深く、(くら)い光。

 その時、赫燕(かくえん)の視線が、広間の喧騒(けんそう)を切り裂くように玉蓮を射抜いた。だが、その視線はすぐに彼女の隣に立つ崔瑾(さいきん)の姿を、まるで値踏みするかのように一瞥(いちべつ)し、そして再び玉蓮へと戻ってくる。

 その目が触れた瞬間、あの頃の熱と匂いが、まるで今、首筋を這うように蘇る。