闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 夜、宮殿で開かれた盛大な酒宴の席。広間には(きら)びやかな灯りが(あふ)れ、琴の音と人々のざわめきが響き渡る。だが、鮮やかな音色とは裏腹に、重臣たちの笑い声は、どこか硬い。白楊の文官が、玄済(げんさい)の使節である崔瑾(さいきん)に、にこやかに酒を注ぐも、その目は一切笑っていなかった。

 探るような視線が渦巻く中心で、崔瑾(さいきん)泰然(たいぜん)自若(じじゃく)として、優雅に杯を傾けている。玉蓮は、その隣で青絹(あおきぬ)の衣を纏い、静かに杯を傾ける。



 酒宴の喧騒の中、崔瑾(さいきん)が他の重臣と話している間に、一人の男が玉蓮の元へと近づいてきた。

「……元気、だった?」

 その声は、やっとの思いで絞り出したかのようにかすれている。

 歳月を経て、劉永はさらに精悍(せいかん)さを増し、白楊(はくよう)軍の中核を担う将軍へと成長していた。その瞳は、多くの兵を率いる将軍のそれだ。深く、静かで、そしてどこか憂いを帯びている。

 書を片手に、きらきらと輝く瞳で自分を見つめていた、あの日の瞳とは、まるで違う色。目が合った瞬間、彼の瞳が揺らぐ。彼の纏う清廉(せいれん)な衣の匂い、その変わらない陽だまりのような優しさ。それに触れて過去を思い出すほどに、呼吸の深さが変わっていく。

劉永(りゅうえい)様も、ご壮健(そうけん)そうで」

 玉蓮は、ただ、当たり障りのない言葉を返すことしかできない。

 劉永の手が玉蓮の手を掴もうとして、寸前で止まり、微かに震える。もう決して、簡単には触れられない。劉永も玉蓮も。二人きりになることでさえ、名節(めいせつ)を汚すことになるのだから。

 出かかった言葉を飲み込むように彼の唇が、はく、と動くが、そこから音は漏れずに、そのまま血がにじむほど強く唇が噛まれた。